番外編:異世界の草むらと、最後の文明(3)
「……は? ……えええええええッ!?」
茂みの中で尻もちをついたまま、僕は自分の手の中を凝視した。そこに現れたのは、さっき使い切ったはずの、新品のポケットティッシュ。
……いや、おかしい。絶対におかしい。
ステータスを見たときは、たしかにこう書いてあった。
【スキル:物質生成Lv1(メロンパン関連)】
【生成可能:メロンパン、包装用袋】
【魔力値:測定不能オーバーフロー】
メロンパンを包むためのビニール袋ならわかる。セットだし。でも、なんでこのタイミングで、パンでも袋でもなく、ティッシュなんだよ!
「メロンパン関連だったよね!? 何なのこれ、バグ!?」
僕は頭を抱えてパニックに陥った。だがその時、脳裏に遠い日本での、ある昼下がりの光景がフラッシュバックした。
(あ、……そういえば……。昔、友達と公園でメロンパンを分けた時。お皿も敷き紙もなかったから、ポケットティッシュを広げて、その上にパンを乗せて食べたことがあったっけ……)
まさか。いや、そんなバカなはずはない。
「メロンパンを乗せる台としての、ティッシュなの……?」
恐る恐るもう一度ステータスを確認すると、そこには驚愕の項目が追加されていた。
【固有スキル:物質生成(メロンパン関連)】
(生成可能:メロンパン、包装用袋、ポケットティッシュ、スマホ用バッテリー、充電用ケーブル)
「増えてるうううううッ! 関連付けが雑すぎるよ!」
そういえば、メロンパンを食べながらスマホをいじって、隣にモバイルバッテリーとケーブルを置いていた。僕の勝手な記憶を、スキルが『正解』だと判断したらしい。だが、今はそんなことどうでもいい。
「……ああ。あああああ……っ!!」
僕は手の中の、白くて、清潔で、なにより柔らかい紙を抱きしめた。これで明日からも、僕のお尻の平和は約束されたんだ。あのギザギザの葉っぱや、冷酷な石に、人間としての尊厳を委ねなくて済むんだ!
「ありがとう、神様! メロンパンをティッシュに乗せて食べたあの日の僕、グッジョブ! 本当によくやった……っ!!」
茂みに一人残された僕は、涙を拭いながら、力強くティッシュを引き抜いた。シュッと鳴るその音は、文明の勝利のファンファーレだ。
だが、その光景を近くの木の上から眺めていたベルにとっては、ただの異様な光景でしかなかった。
夕闇が迫る森の茂みで、一人の少年が、なぜか紙の束を天にかざして涙を流し、奇妙な踊りを踊りながら神に感謝を捧げている。
「……。ニャォ……」
薬草採取を見守っていたベルは、この主人の新しい連れが、ついに正気を失ったのではないかと、心底呆れ果てた目でその滑稽な姿を見つめ、興味を失ったように毛繕いを始めた。




