番外編:異世界の草むらと、最後の文明(2)
レオンさんにギルドへ連れて行かれ、ベルと一緒に魔力草の採取に
やってきたあの日。……。
薬草探しに夢中になっていたけれど、ふいに訪れた生理的な限界が、
……。森の奥で僕を極限まで追い詰めていた。
「……。ついに、……この時が来ちゃった」
木陰の茂み。僕は震える指先で、最後の一枚を引き抜いた。
日本にいた頃は駅前で無造作に受け取っていた、ただの消耗品。
それが今、僕の手の中で白く神々しく輝いている。
「……。これで最後。……。これが無くなったら、僕は……」
僕は泣きそうになりながら、その一枚を極限まで丁寧に広げた。
破かないように。一箇所も無駄にしないように。
異世界の過酷な環境で、僕の尊厳を守る、最後の砦。
「……。さよなら、……僕の文明。……。さよなら、……日本……っ」
僕は決死の覚悟で、最後の一枚を使用した。
指先に伝わる、柔らかくて、優しい感触。……。
……。それは、……この世界のトゲのある葉っぱや、
……。冷たくて硬い石とは、……決定的に違う優しさだった。
用を終え、空になったビニール袋を握りしめ、僕は茂みに座り込んだ。
もう、次はない。次からは、あのゴツゴツした石や、
……。得体の知れない苔に、……僕の大事な部分を託さなきゃいけない。
「……。無理だよ。……。そんなの、……絶対に耐えられない……っ!」
現代人の魂が、絶叫を上げていた。
魔法が使えないなら、剣が振れないなら、
……。せめて、……せめてこの『柔らかさ』を……っ!!
その時。僕の胸の奥で、何かがパチンと弾ける音がした。
柔らかさへの異常な執着。それが、僕の魔力を捻じ曲げた。
「……。えっ?」
暗闇の中、僕の両手の間に、淡い光が灯った。
そこに現れたのは、白くて、清潔で、
……。さっき使い切ったはずの、新品の『ポケットティッシュ』だった。
「……。は? ……。えええええええッ!?」
僕は混乱のあまり、茂みの中でひっくり返った。
なんで? 魔法って、火を出したりするもんじゃないの?
……。なんで、……ティッシュなの!?




