第35話:街道の静寂と、狂える魔物?
王都へ続く街道。
俺たちは二頭の『風切り馬』を走らせていたが、
王都の灯りが見え始める手前で、俺は馬を消還した。
「……。レオンさん?
……。まだ距離ありますよね。なんで馬を消しちゃうんですか」
「……。目立ちすぎる。
……。今の王都がどうなっているか分からんからな。
……。ここからは徒歩で近づく。……。今夜はここで野宿だ」
俺は街道から外れた大樹の根元に陣取ると、魔法陣を展開した。
銀の体毛を月光に光らせ、巨狼『フェンリル』が静かに現れる。
「……。ハヤト。……。
……。前と同じだ。その腹の下に入って寝ろ。
……。夜露も凌げるし、こいつが周囲を警戒してくれる」
「あ、またお世話になります! ……。
……。相変わらず最高の寝心地だなぁ。……。
……。あの、これ。……。よかったら食べてみて」
ハヤトが懐から取り出したのは、自身のスキルで生成した、
……。出来たての『ホイップメロンパン』だった。
フェンリルは最初、不思議そうに鼻を鳴らしたが、
……。一口食った瞬間、その金色の瞳を見開いた。
(……。ふん。……。
……。アースドラゴンの肉より、こいつのパンを喜ぶとはな。
……。誇り高い伝説の獣が、すっかり甘いものに毒されてやがる)
ハヤトが巨狼の毛並みに埋もれて寝息を立て始めた頃、
……。静まり返った夜の闇を裂いて、藪が激しく揺れた。
「――ギギィィッ!」
飛び出してきたのは、数匹の『ゴブリン』だった。
下級中の下級。……。本来なら、俺の隣に座るフェンリルの
圧倒的な上位個体の気配に、命惜しさに逃げ出す雑魚だ。
だが、こいつらは違った。
……。白目を剥き、口から泡を吹いて、
……。格上の頂点に立つ獣に向かって、迷いなく飛びかかってきた。
「……。ッ、消えろ」
俺が指を鳴らすまでもなく、フェンリルの鋭い爪が、
……。ゴブリンの胴体を一瞬でバラバラに引き裂く。
死骸を見下ろして、俺は眉をひそめた。
「……。おかしい。
……。下級の魔物が、この気配に特攻してくるはずがない。
……。まるで、本能としての恐怖を上書きされているようだ」
物音に起き上がったハヤトが、暗闇を不安そうに見つめる。
「……。レオンさん、今の……。
……。やっぱり、王都で何かとんでもないことが起きてるの?」
「……。分からん。……。
……。だが、下級の魔物にまで影響が及んでいるのだとしたら……。
……。王都は、俺たちが考えている以上に手遅れかもしれんぞ」
俺は返り血を拭い、暗雲に閉ざされた王都の空を睨みつけた。




