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第33話:予兆と、粘着の罠?

 翌日ガレリアのギルド長室。

 昨日は演習場での検証を終えて宿に戻ったが

 次の日も王宮の事で話し合うために来た。

 バルガスは安酒のボトルを片手に、不機嫌そうな顔で迎えた。


 「……。レオンか

 ……。で、どうだったんだ。その小僧のパンの価値は」


 「……。ふん。……。

 ……。腹を膨らませる以上の価値など、見当たらんな」


 俺は平然と嘘を吐いた。召喚獣が強制進化したなどと知れれば、

 ハヤトが国家間の争奪戦に巻き込まれるのは目に見えている。


 「……。あ、あの。……。

 ……。バルガスさんもこれ、よかったらどうぞ」


 気まずさを誤魔化すように、ハヤトが『生成』を行う。

 キンキンに冷えたメロンソーダの缶が三つ、机に現れた。

 だが、俺は自分の缶に手を伸ばそうとして、その指を止めた。

 ……。


 (……。来る。……。この、肌を刺すような粘りつく不快感……!)


 俺は、机の上のソーダには目もくれず、

 ハヤトを真っ直ぐに見据えた。これまでにない真剣な面持ちで。


 「……。ハヤト。メロンパンを一個出せ。

 ……。『粘着』を付与したものだ。

 ……。早くしろ。間に合わなくなるぞ」


 「えっ!? ……あ、粘着って、あのクモの巣のやつですよね?

 ……。レ、レオンさん!? 分かりました、今すぐ……!」


 俺のただならぬ気迫に、ハヤトは慌てて手をかざした。

 バルガスさえもが酒を置き、腰の剣に手をかけて身構える。


 (……。よし。……。このまま突き進んでくるつもりなら、

 ……。問答無用で絡め取ってやる……!)


 俺が生成されたパンを手に取り、窓を凝視した、その時。


 ――ガシャンッ!!


 「――レオン様ぁぁ!! 会いたかったですぅ!!」


 「……ッ、今だ! 食らえッ!!」


 反射的に投じられたメロンパンが、空中でクモの巣状に弾ける。

 「ふぎゃっ!?」という情けない悲鳴と共に、

 白い糸にグルグル巻きにされ、床に転がったのはカレンだった。


 「……。なんだ、お前の天敵かよ。脅かしやがって」


 バルガスが呆れて座り直すが、カレンは糸の中でもがくこともなく、

 「……はぁ、はぁ……っ!」と熱い吐息を漏らし始めた。


 「……。あああ、レオン様……っ!

 ……。飛び込んだ瞬間に、こんな情熱的な『拘束プレゼント』で

 ……。私を雁字搦めにするなんて……っ! 幸せすぎますぅ……!」


 俺は、喜びで震えるその女を、

 氷のように冷え切った瞳で静かに見下ろした。


 (……。ハヤト、もう一個だ。……。

 ……。今度は、こいつの口を完全にふさぐやつを……!)


 本気で追撃を指示しようとした、その時だ。


 「……。おいカレン。悦に浸ってねえで報告しろ。

 ……。王都の様子はどうだったんだ。ええ!?」


 バルガスが机を叩いて一喝する。その怒声に、

 頬を赤らめていたカレンの表情が、一瞬で真っ青に強張った。


 「……。あ、レオン様、すみません。……それどころではないのです。

 ……。王都の地下で、本物の地獄が産まれようとしています……!

 ……。黒い泥が城を侵食し始めているんです!」


 カレンの切実な叫びに、室内の空気が一瞬で凍りついた。

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