第31話:禁断の増幅(ブースト)?
「……。ベル、もう一度言え。
……。ハヤトのパンを食べると、力が漲ると言ったのか」
膝をついたまま、俺は隣でホイップを舐めているベルに問うた。
ベルは満足げに目を細め、尻尾をゆっくりと振る。
「……ニャ。単なる栄養補給とは違うのよ。
……。あれを食べると、体内の魔導線が熱くなって、
……。普段は出せない奥底の力が、勝手に溢れてくるかな」
(……。単なる『幸福感』による懐柔ではない。
……。このパンは、召喚獣の根源的な力を引き出す
……。未知の増幅器だというのか……?)
俺は、その仮説を証明するために、さらに別の術式を編んだ。
「……。ハヤト、今度は『生クリーム』を多めにしたやつを出せ。
……。試したいことがある」
「えっ、あ、はい! 特製ホイップメロンパンですね!」
ハヤトが生成したパンを、俺は小型の魔陣から呼び出した
一羽の瑞鳥に与えた。
「……。こいつは『青風の運び手』。本来なら伝令用の小型種だ」
現れたのは美しい青い羽を持つ小鳥。偵察には長けているが、
人間を乗せて飛ぶなど、本来は天地がひっくり返ってもあり得ない。
だが、ハヤトのパンを一口飲み込んだ瞬間。
小鳥の全身が、眩いばかりの青い光に包まれた。
「……ッ!? レオンさん、鳥が、大きくなってます!」
「……。馬鹿な……。強制進化か……?」
光が収まった後、そこにいたのは、大の大人が
二人乗り込めるほどの巨躯へと変貌し、
猛烈な風圧を纏った伝説級の怪鳥だった。
「……。見てよ主。伝令用の小鳥が、
……。一瞬で特級の騎乗獣に成り上がったかな」
俺は震える手で、ハヤトの肩を強く掴んだ。
「……。ハヤト、よく聞け。……。
今ここで試したことは、絶対に他言無用だ。
……。いいか、ギルド長のバルガスにも、一言も漏らすな」
「えっ、ギルド長にもですか?」
「そうだ。……。このパンの効能が知れ渡れば、
世界中の軍隊がお前を奪い合いに押し寄せてくるぞ」
俺は、あまりに甘美で恐ろしい『黄金のパン』を凝視した。
……。
(……。これがあれば、王宮が呼び出そうとしている
『禁忌』に対抗できる……かもしれん)
だが、相手は古の魔導書に記された絶望の象徴だ。
パン一個の強化でどこまで通じるのか。
俺は冷たい夜風の中で、
わずかな希望と、それを上回る不安を胸に、
闇に沈む王宮の方角を睨みつけた。




