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第30話:契約の理(ことわり)、メロンパン?

 ギルド裏の演習場。月明かりが照らす静寂の中、

 俺はハヤトを連れ、樽の上で丸まっていたベルを呼び寄せた。


 「……ベル。お前に聞きたい。なぜ、最近は俺の出す

 『最高級マタタビ』を無視する」


 俺が懐から、乾燥させた銀色の葉を差し出す。

 かつてはこれ一振りで狂喜乱舞したはずのベルだが、

 今は心底どうでもよさそうに、ふいと顔を背けた。


 「……ニャ。あるじ、そんなパサパサした草より、

 ハヤトの『ホイップパン』の方が何倍もマシかな。

 あれを食べると、体の中の魔力がじわーっと幸せな色に染まるのよ」


 (……。俺が心血を注いで調達してきた稀少な嗜好品より、

 ただの菓子パンの方が、高位魔物にとって価値が高いのか)


 召喚士としての常識が、足元から崩れる音がした。


 「……。ハヤト、パンを出せ。今から別の召喚獣を呼ぶ。

 お前のパンが、初対面の相手にも『対価』として通用するか試す」


 「えっ、ええっ!? また実験ですか?」


 「黙っていろ。……。『北風の猟犬』、我が声に応じ、

 現世の鎖に繋がれ、対価を受け取れ……!」


 地面に魔法陣を描くと、凍てつく風と共に青白い毛並みの巨狼が現れた。

 本来なら、極寒の地にしか咲かぬ『氷晶花』を

 報酬(対価)に動く、誇り高き獣だ。


 「グルルル……ッ!」


 巨狼は低く唸り、鼻を鳴らして報酬を催促する。

 殺気立った視線が、対価を持たぬハヤトに向けられた。


 「……ハヤト、今だ。それを投げろ」


 ハヤトが生成したばかりのメロンパンを巨狼の鼻先に放った。

 ……。

 クンクンと鼻を鳴らし、パンを一気に咀嚼すると……

 次の瞬間、その凶暴な眼光が溶けるように和らいだ。

 巨狼は本来の報酬である『氷晶花』など見向きもせず、

 パンを産み出したハヤトの手を、

 まるで忠実な飼い犬のようにペロペロと舐め始めた。


 「……。見てよ主。あの誇り高い猟犬が、もうパンの奴隷かな。

 ……ハヤト、ボクにももう一個ちょうだい?」


 (……。希少な魔導植物を凌駕する契約が、

 菓子パン一個の『幸福感』に、負けた……)


 俺は、召喚士としての自分の価値が

 パン屋の店主以下に成り下がった現実を突きつけられ、

 夜の演習場で、一人静かに膝をついた。

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