第29話:王国の黄昏と、冷徹な選択?
「……。バルガス、確認だ。
王宮が俺を呪い師だと騒ぎ立てている間にも、
防衛線は崩れ続けているんだな?」
俺は腰にしがみつくカレンを剥がそうと格闘しながら、
机の上のグラスを睨みつけた。
バルガスは重々しく頷き、空になったボトルを置いた。
「ああ。国境全域で大規模な『大暴走』の予兆がある。
避難民が溢れ、流通が止まれば、
この自由都市ガレリアもいずれ干上がるからな」
「……。勝手に自滅すればいい。
俺という抑止力を切り捨てればどうなるか、
想像すらできなかった無能どもの末路だ」
俺が冷たく吐き捨てると、ハヤトが顔を青くして口を開いた。
「で、でもレオンさん!
悪いのは王様たちで、関係ない人たちが死ぬのは……。
それに、ガレリアまで魔物が来たら、僕たちも危ないですよ!」
ハヤトの正論に、俺は舌打ちした。
(……。確かに。このまま王都が飲み込まれれば、
余波でこの街まで被害が及ぶのは目に見えている)
「……。それにレオン様。……。
私が王都に潜っていた時に聞いたんですが、
あいつら、地下で『変な実験』を始めたらしいですよ?」
俺の胸に顔を埋めたまま、カレンが不意に声を潜めた。
「実験、だと?
(……。そういえば、あの王宮の地下には
『禁忌の召喚術』が眠っていると聞いたことがある。……。
まさか、制御できる使い手もいないのに、あれを……?)」
もしそれが本当なら、魔物に滅ぼされる前に、
身内が呼び出した化け物に王都そのものが食い尽くされる。
俺は、しがみつく女の首根っこを掴んで強引に引き剥がした。
「カレン。……。もう一度王都へ戻れ。
奴らが地下で何を呼び出そうとしているか、その証拠を掴んでこい。
潜入調査なら、お前の独壇場だろう」
「ええっ!? レオン様と離れ離れなんて嫌です!」
「……。仕事だ。行け」
俺は、嫌がるカレンを窓の外へと有無を言わさぬ勢いで送り出した。
不満げな絶叫が夜風に消えていくのを見届け、俺はポツリと呟いた。
「……。よし。……今のうちに、さらに遠くへ逃げるとするか」
「何言ってるんですか! 最低ですよレオンさん!」
ハヤトの鋭いツッコミに、俺は「冗談だ」と鼻を鳴らした。
そして、ハヤトが握りしめているホイップパンをじっと見つめる。
(……。ベルが俺への報酬を求めなくなった理由……。
もし、この『菓子パン』に高位魔物を屈服させるほどの
未知の価値があるとするならば……)
それが本当なら、召喚士としての俺の戦術は根底から変わる。
「……。ハヤト、行くぞ。少し試したいことがある」
「えっ? な、何をですか?」
「……。お前のその『パン』の本当の価値だ。
……。王都が火の海になる前に、確かめておかねばならん」
俺は、呆然とするハヤトを連れ、
深夜のギルドを後にし、静まり返った演習場へと向かった。




