第28話:逃げ場の終焉と、最凶の再会?
「……ッ、離せバルガス! 今ならまだ間に合う、
俺はこいつのいない、もっと静かな安住の地へ……!」
窓の縁を掴み、夜の街へ飛び降りようとする俺を、
バルガスの岩のような拳が襟首ごと強引に引き戻した。
俺はなすすべなく室内の床へと転がり、
有無を言わさぬ力で、元の椅子へと叩きつけられた。
「……はぁ、はぁ。……バルガス、お前。
……。腕力が、さらに上がっていやしないか」
俺は乱れた呼吸を整え、乱暴に髪をかき上げた。
膝の上には、剥がされるどころか、
俺の胸に恍惚とした表情で顔を埋めているカレンがいる。
彼女の指は俺の服を固く掴み、離れる気配は微塵もない。
(……。クソ。……。完全に逃げ遅れたか……)
俺は激しく脈打つ心臓を抑え、
ようやく諦めたように、呆然と立っているハヤトへ視線を向けた。
「……ハヤト。こいつはカレンだ。
バルガスが『とっておき』と呼ぶ、腕利きの調査員だが……。
……。俺にとっては、死神より質の悪い天敵だ」
修行時代、俺が極限の集中を要する召喚の儀式を
執り行おうとするたびに、彼女はどこからともなく現れた。
そして「愛しています!」と絶叫しながら俺に突撃し、
契約寸前の魔物を追い払うという暴挙を繰り返したのだ。
「あら、それは愛の試練ですよ、レオン様。
……。魔物との契約より、私との『誓い』を
優先してほしかっただけなんですもの」
カレンがうっとりと俺を見上げる。
ハヤトは「……。ガチのストーカーじゃないですか」と、
ホイップパンを握ったまま、戦慄した声を漏らした。
「そうだ。……。
おまけにこいつの『隠密』としての実力は本物だ。
俺がどんなに魔術的な隠蔽を施して潜伏しても、
理屈を無視した執念だけで居場所を特定しやがる」
バルガスが呆れたように酒を煽り、
机の上の指名手配書を指先で重く叩いた。
「……。惚気はそこまでだ。
……。王の野郎、自分の無能で防衛線が崩れたのを、
……。本気で『レオンの呪い』だと信じ込みやがった。
挙句の果てに、国中にこの手配書をバラ撒いたんだぜ」
俺は、膝の上でデレデレとしている女の重みを感じながら、
手配書に記された『呪い師』という罪状を睨みつけた。
(……。あいつら。……。
俺がいなくなった後の不手際を、
……。すべて俺の『嫌がらせ』だと本気で勘違いしやがったか)
救いようのない王の愚かさに、
俺の心は、かつてないほどの冷徹な怒りに支配されていた。




