第27話:究極の損切り?
「……あ、あの……。
レオンさん、その……激しく密着しているお姉さんは?」
ハヤトがホイップパンを握りしめたまま、
引きつった笑顔で問いかけてきた。
俺の首には、今も恍惚とした表情のカレンが
万力のような力でしがみついている。
「……。ハヤト、よく聞け。……。
こいつはカレン。……。
俺の人生の計算式をすべて狂わせる、歩く災害だ」
「災害だなんて、照れますねぇレオン様……。
……。ところで。……。
その子は? 新入りの使い走りですか?」
カレンの紫の瞳が、俺の肩越しにハヤトを射抜く。
(……。そうだ。……。
このままでは、俺もハヤトもこの女に呑み込まれる)
俺は一瞬で思考を加速させ、
ハヤトの肩にバシッと手を置いた。
「……ハヤト。残念だが、お別れの時が来たようだ。
……。見ての通り、俺は大罪人として指名手配された。
これ以上、お前を危険に巻き込むわけにはいかん」
「えっ!? ……あ、でも……」
「案ずるな! お前にはバルガスがついている!
……。達者でな、ハヤト!
……。パンのスキルを磨き、立派なパン屋になれ!
……。さらばだ!!」
俺はカレンの腕を強引に引き剥がしながら、
窓の縁へと全力で跳躍した。
(……。ふっ。……。
王宮の追手も、この厄介な女も、ハヤトの異能も……
……。今この瞬間、すべてを放り出して俺は消えるッ!)
だが、俺の体が夜風に触れる直前。
背後から伸びてきた岩のような巨大な手に、
襟首をガシッと掴み取られた。
「……。どこへ行こうってんだ、ええ? レオン」
「……ッ、離せバルガス! 俺は今、
……弟子の身の安全を思って、苦渋の決断を……!」
「嘘をつけ。……。
……。面倒事を全部俺に押し付けて、
一人で高飛びしようとしただけだろ、この野郎」
バルガスに軽々と吊り上げられ、
俺は空中で足をバタつかせた。
そこへ、剥がされたはずのカレンが再び
「逃がしませんよぉ!」と俺の腰に抱きついてくる。
「……。
(……。クソ。……。俺としたことが、
この筋肉ダルマの握力を計算に入れ忘れるとは……)」
俺は、呆れ顔のハヤトと、
ニヤつくバルガスの視線に晒されながら、
再びギルド長室の床へと引き戻されるのだった。




