第26話:再会は嵐のように?
「だがハヤト、これは……。
……。確かに、悪くないな」
俺がホイップパンの「未知の幸福感」に毒気を抜かれていた、
その時だった。
窓の鍵が音もなく外れ、
夜風と共に、一人の影が鮮やかに室内へと滑り込んだ。
「――やっと、やっと会えましたね、レオン様ぁ……!」
「……ッ!? ごふっ!?」
聞き覚えのある、執念に満ちた嬌声。
返事をする間もなく、
凄まじい速度の影が、俺の胸元へと一直線に激突した。
「ああ、この匂い、この体温……!
……。どこへ逃げても無駄ですよ。
貴方の足取りを追うことなんて、私には朝飯前です」
「……ッ、カ、カレン!?
……な、何でお前がここにいるんだ!!
お前は聖教国レリウスにいるはずだろ!?
だから俺は、あえてこの街を選んだんだぞ!」
「ふふ、愛の力は国境なんて越えるんですよ。
さあ、今すぐ私を召喚してください!」
俺は必死にカレンを剥がそうとしたが、
首にしがみつく彼女の腕は、万力のようにびくともしない。
ハヤトが「えっ、レオンさんの……ええっ!?」と、
パンを握ったまま、あまりの光景に絶句している。
「はっはっは! 潜入調査ならこいつが一番だろ?
……。俺が特別に頼んで、呼び寄せてやったんだぜ」
バルガスが愉快そうに酒を煽る。
最悪だ。俺が最も避けていた相手が、
最も完璧なタイミングで現れた絶望感に、俺は天を仰いだ。
「……。おいカレン。いつまで堪能してやがる。
レオンが窒息する前に、とっとと報告しろ」
「……ちっ……。
……バルガスの旦那、空気が読めない男は嫌われますよ」
カレンは不満そうに唇を尖らせつつも、
俺にしがみついたまま、懐から一通の羊皮紙を取り出した。
それを俺の顔のすぐ横で、ひらひらと振って見せる。
【特級指名手配:レオン・アルヴィス】
【罪状:国家転覆罪、および魔物への『呪い』によるテロ行為】
「……呪い、だと……?」
俺の動揺は、一瞬で冷徹な怒りへと変わった。
(……あいつら。……。
俺が去った後の混乱を、すべて『俺の呪い』に仕立て上げ、
全責任を俺に押し付けやがったな……!)
愛を叫び続ける女の腕の中で、
俺の周囲の空気だけが、
パキパキと凍りつくように冷えていった。




