第25話:深まる疑念と、白い誘惑?
森の主を討伐してから、さらに数日が過ぎた。
俺――レオンは、このところ毎日、
午前中にはギルド長室に足を運んでいる。
「バルガス、まだか。
王宮の防衛線の状況はどうなっている」
「焦るな、レオン。
今、とっておきの人材を放って情報を集めさせている。
もうすぐ、詳細な『生きた情報』が手に入るはずだ」
バルガスが苦々しく酒を煽る。
俺が気になるのは、俺という『重石』が外れた後の、
王国の防衛機能がどう推移しているかだ。
(俺が去っただけで、
そこまで加速度的に防衛線が崩れるものか?
あの無能ども、俺の警告を無視して、
無理な魔力抽出でもして龍脈のバランスを崩しやがったか……)
思考を巡らせる俺の脳裏を、ふと別の違和感がよぎった。
今、外でハヤトに同行しているはずの召喚獣――ベルのことだ。
(ベルの奴。
最近、俺への召喚の対価(報酬)を求めなくなった。
力で屈服させる他者とは違い、
俺は対等な契約として『魔力』を払ってきた。
それなのに、最近は自ら進んでハヤトを護っている)
その時、勢いよく部屋の扉が開いた。
「レオンさん! バルガスさん!
ただいま戻りました! ……見てくださいこれ!」
戻ってきたハヤトの手には、
焼きたてのパンの隙間から、
雪のように白く柔らかな泡が溢れ出した『物体』が握られている。
「これ、レベルが上がって出せるようになった、
『生クリーム』です!
ベルちゃんに一口あげたら、 しっぽを振って大喜びしちゃって。
はい、どうぞ! 食べてみてください!」
ハヤトは屈託のない笑顔で、
俺とバルガスの前にその『ホイップパン』を差し出した。
「……。ふん。……。
…………ッ!? な、何だ、この口溶けは」
一口齧った瞬間、俺の思考が一時停止した。
雲のように軽いのに、暴力的なまでの甘み。
隣ではバルガスが「おおおっ……!」と、
言葉にならない呻き声を上げて震えている。
(まさか、ベルの奴。
俺が提供する高密度の魔力よりも、
この『甘味』を対価として選んだというのか?)
俺は、独自の召喚術の根幹である「対価の重み」が、
ただの「菓子パン」に負けた事実に戦慄した。
「レオン、これだ……。
この小僧の『異能』があれば、
疲弊した騎士団を、このパンで買収できるぞ……!」
「バルガス、寝言は寝て言え。
騎士団がパンごときで動くか。
そんなんで買収できるなら、苦労はねえ」
俺は甘い香りに満ちた室内で、
冷静さを取り戻そうと鼻を鳴らした。
だが、口の中に残るこの「未知の幸福感」を知れば、
あながち冗談とも言い切れない破壊力を感じてしまう。
「だがハヤト、これは……。
……
……確かに、悪くないな」
俺は、このあまりに甘美な「毒」を噛み締めながら、
不穏な静寂の先に待つ「重い報せ」を待った。




