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第15話:無敵の鎧にどうする?

【登場人物】


レオ / 処刑された元聖白教の異端審問官。黒髪に翠と金の目。黒い外套。ダラクローンと契約し、堕落のダンジョンで人々を解放する。


ノクス / ダラクローンの眷属。銀髪ボブに黒いゴシックドレス。ダンジョンの根幹を担っている。滅ぼされた魔法文明の魔法使いで、祈跡使いの聖白教の堕落を支援する。


アウレリア / 金色髪の聖女。聖白教オルドリア教区(王国の教区)と北の白塔をつなぐ聖務連絡官。普段は敬語を使う凛とした連絡官だが、ダンジョンの力で欲望が解放されてデレデレ?になってしまう。武国に向かう途中で捕まってしまった。現在寂しい中。


エイレン / 元異端審問代行官。赤髪碧眼、ボンデージ風の服に猫耳パーカー。冷酷な動物嫌いの代行官だったが、本当は動物大好き。堕落した後は、『ポニーテール』に猫耳をつけて某動物愛好家ばりのわしゃわしゃもふもふをするようになってしまう。


夕霧 / 紫にも見える黒のツインテール。髪色と同じ黒と紫基調の忍者服風の着物。踊り子の母を持つ。忍び、乱波で支配者に対してちょっとサディスティック。


クラリス / 青髪のハーフアップにカラフルなメッシュ。グレイヴァルド王国の宰相で、自分のアーティスティックな感性を解放させて、国家運営?をしてしまう。武国編では王国再編が忙しく、連絡と補助中心。


【設定】

堕落のダンジョン / 神聖連合国の一国、グレイヴァルド王国の郊外地下に作られたダラクローンのダンジョン。欲望を満たすために、魔力によるダンジョンルームが仮設→生成され、人々を堕落させていく。


「ガハハハ! 見ていたかお前ら! これがオレの力だ!」


 両腕を広げ、集まった人々を見渡すギルモア。


「オレの鎧! あの化け物みたいな祈跡を受けてもピンピンしているぞ! この連中は偽物だ! 口先だけの山師どもだ!」


 黄金の鎧が白煙を上げながら、大通りの中央に仁王立ちしている。


 鎧の各所で祈力障壁が明滅しているが、本体はまだ健在だ。


 周囲には爆音に引き寄せられた職人、老人、家族連れ……。


 親睦会で直立不動で笑わされていた顔が、いくつも見えた。


 その全員が息を飲んで輪を作り、誰も動かない。


「主よ」


 エイレンが私の隣に立った。


 大剣の柄に手を添え、鋭い目でギルモアを見据えている。


「あの鎧の障壁、まだ残っている。厄介だな」


「ああ」


「正面からでは埒が明かん。手はあるか」


「ある」


 私はリュシエルに目を向けた。


「始めろ」


「……めんどくさいけどしかたない」



          ◇



 リュシエルが静かに前へ歩み出た。


 夜風にドレスの裾を揺らし、扇子を開き、ギルモアを真っ直ぐに見据える。


 攻撃する気配ではない。


 ただ、品定めするような目だ。


 それがかえって、ギルモアの神経を逆撫でしたのだろう。


「……こっちを見なさい。……筋肉ダルマ」


「あぁ? なんだと?」


 閃光。


 爆炎が石ダタミを焼き、白煙が大通りに広がる。


 ギルモアの障壁が、全方位を光の膜で覆った。


 派手な一撃だ。


 周囲の人々が思わず後退りするほどの規模。


「無駄だ無駄だ! この鎧には数千金貨と、白塔の最高位祈跡が込められている! すべてがオレを守っているんだよ!」


「……チッ」


 リュシエルが小さく舌打ちした。


「……無駄に硬いだけ」

 

 再び扇子を振る。


 横薙ぎの衝撃波は、またギルモアの障壁が受け止めた。

 

 何度も。


 防がれる。


 また防がれた。


 爆炎が夜空を照らし、煙が大通りを覆う。

 

 傍から見れば、リュシエルが一方的に攻撃し、それを完璧に防がれていると見えるだろう。


 それでいい。


 それが狙いだ。


「そうだろうそうだろう! 正面からの力押しならオレは負けん! さすがのお嬢ちゃんも、オレの鎧の前では——」


 また閃光。


 また爆炎。


 リュシエルが畳みかけるように祈跡を連発する。


 一撃一撃が大きく、衝撃音が上がるたびにギルモアは高笑いをやめない。


 正面からの力押しなら絶対に負けないという確信が、彼の目に満ちていた。


 私は煙の向こうに目を走らせる。


 夕霧の気配が、いつの間にか消えていた。


 それでいい。


          ◇



「……あー、つかれた。……寝たい」


 先ほどまでの『力押しに苦戦する小娘』の顔は、もうどこにもない。


「……終わったわ」


「なっ、なんの話だ! 貴様の攻撃はオレには通らん! そのことはもう——」


「あなたの背中、確認してみれば?」


 ギルモアが再び背後に手を回した。


 届かない。


 指先が震えている。


「なんだ! なんなんだ!」


 鎧の中で焦る声が漏れ始めた。


「後ろ失礼しまーす」


 夕霧が楽しそうにしゃがんで笑っていた。


「はいどーぞ♡」


「な……なんだこの紙切れは!?」


 高笑いの余韻が消える……背後に手を回して装甲の継ぎ目を探るギルモア。


 フルプレートアーマーの可動域では届かない。


 爆煙の中で、リュシエルがため息をつく。


「……ふぅ」


「な……なんだこれは……! 剥がれない! なんで剥がれないんだ!!」


 リュシエルが指を鳴らした。


 カチン、という小さな音だった。


 夜風の中では消えてしまいそうなほど静かな音が、不思議なほど大通りに響いた。


「……複合術式、起動」


 ギルモアの背中で、スクロールが光を放った。


 リュシエルが『夜なべ』して仕上げた特製の術式だ。


 バシュン!


 外から壊すのではなく、鎧の魔力回路に内側から侵入し、装着システムそのものを書き換える。


 白塔の最高位祈跡がいくら強固であろうと、回路の根幹を乗っ取られれば意味をなさない。


「な……なんだ!? 鎧が、鎧が勝手に——!」


 カシャン。


 最初の音が夜空に響いた。


「待て! 待て待て待て——!」


 カシャン、カシャン。


 接合部が次々と弾け、精巧に組み上げられていた装甲が内側から浮き上がっていく。


 祈力障壁が連鎖的に霧散し、明滅していた光が一つ一つ消えていった。


「やめろ! 金貨数千だぞ!? これはオレの数千の——!」


 ボンッ!!


 全パーツが同時に弾け飛び、黄金の残骸が大通りに降り注いだ。


 金属片が石畳を叩く音が、しばらく続いた。


 煙が晴れた。


 沈黙が、月影の大通りを支配した。


「あ……れ……?」


 間の抜けた声が、静寂の中に漏れた。


「オレの……最強の……装備……?」


 数千金貨の資金と白塔の最高位祈跡が込められた国宝級の鎧は、今や彼の周囲に散らばった無骨な金属片に過ぎない。


 その残骸の中心に、派手な柄の下着一丁という格好で、ギルモアが呆然と立ち尽くしていた。


 肌寒い夜風が、大通りをゆっくりと吹き抜けた。


「……涼しそうで何より」


 リュシエルが扇子で口元を隠しながら、冷たく言い放った。


「……お似合いよ」


 周囲の人々が、完全に固まっていた。


 昨日まで『全体の成長のため』と説き、家宝の刀を折り、感謝を強要していた男が、今や下着一丁で月影の夜風に晒されている。


 ギルモアの私兵の一人が、主人の姿を見て、音もなく目を逸らした。


 別の兵士が、隣の同僚と顔を見合わせた。


「な……なんだこれは……! オレは月影の王だぞ! オレはこの街の——」


「旦那様」


 ノクスが静かに私の傍らに寄ってきた。


「民衆の表情が変わっております」


 その通りだった。


 怯えが薄れ、代わりに別の何かが広がりつつある。


 長い間押しつけられていた重荷が、少しだけ軽くなったような、そんな顔だ。


 老職人が、隣に立つ仲間の腕をそっと掴んでいた。


「滑稽だな」


 エイレンが腕を組み、ギルモアを鼻で笑う。


「金で買った力とは、こういうものだ」


「ですねー」


 夕霧がいつの間にか私のそばに戻ってきて、困ったように頬をかいた。


「ご主人ー、あの格好で硬直しちゃいましたねー」


「そうだな」


 私は大通りの中央に歩み出た。


 周囲の視線が集まる。


 ギルモアの目には今、恐怖と羞恥と怒りが入り混じった複雑な色があった。


 数億の装備も、百人の私兵も、もうそこにはない。


 月影の夜風の中に、ただの一人の男が立っている。


「ギルモア」


 私は静かに言った。


「横流しの名簿だ。職人たちから巻き上げた金属の行き先、人質として管理していた家族の記録。全て、もうこの街の人々の手に渡っている」


「……嘘だ」


 ギルモアが絞り出すように言った。


「嘘ではありません」


 ノクスが書板を開き、淡々と続けた。


「本日夜半、職人組合の長老の手に写しが届いております。夜明けには、この街の全員が内容を知るでしょう」


 ギルモアの顔から、怒りの色が消えた。


 残ったのは、剥き出しの恐怖だった。


「……ね、ノクスさん」


 夕霧がこそっと耳打ちした。


「あの人、このまま逃げようとしますかねー」


「十中八九そうかと」


 ノクスが静かに答えた。


「ですので手は打ってございます」


「さすがですよー」


 周囲の人々が、静かにギルモアを囲んでいた。


 昨日まで彼を恐れていた人々が、今は一歩も退かずに立っている。


 その視線の重さを、ギルモアはようやく、肌で感じ始めているようだった。

 

 


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