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第40話:行政と武力

【登場人物】


レオ / 処刑された元聖白教の異端審問官。黒髪に翠と金の目。黒い外套。ダラクローンと契約し、堕落のダンジョンで人々を解放する。


ノクス / ダラクローンの眷属。銀髪ボブに黒いゴシックドレス。ダンジョンの根幹を担っている。滅ぼされた魔法文明の魔法使いで、祈跡使いの聖白教の堕落を支援する。


アウレリア / 金色髪の聖女。聖白教オルドリア教区(王国の教区)と北の白塔をつなぐ聖務連絡官。普段は敬語を使う凛とした連絡官だが、ダンジョンの力で欲望が解放されてデレデレ?になってしまう。


エイレン / 元異端審問代行官。赤髪碧眼、ボンデージ風の服に猫耳パーカー。冷酷な動物嫌いの代行官だったが、本当は動物大好き。堕落した後は、『ポニーテール』に猫耳をつけて某動物愛好家ばりのわしゃわしゃもふもふをするようになってしまう。


クラリス / 青髪のハーフアップにカラフルなメッシュ。グレイヴァルド王国の宰相で、自分のアーティスティックな感性を解放させて、国家運営?をしてしまう。


【設定】

堕落のダンジョン / 神聖連合国の一国、グレイヴァルド王国の郊外地下に作られたダラクローンのダンジョン。欲望を満たすために、魔力によるダンジョンルームが仮設→生成され、人々を堕落させていく。


 太陽が沈んだ王都……。


 王の演説も虚しく、聖白守護騎士団は進軍を再開した。


 彼らの掲げる大義名分は『王の救出』。


 王は異端に操られているため、物理的に確保して浄化せよ——という、教区長リュシエルの狂った解釈によるものだ。


 私はダンジョンに戻っていた。


 水鏡に映る王都の様子。


「来るぞ。メインストリートに敵本隊、約千五百」


『配置完了よ。……私の「都市計画」が、どれほど強固か思い知らせてあげます』


 ダンジョンアイテム『インカム』越しに、宰相クラリスの自信に満ちた声が響く。


 彼女は今、王城に戻り、執政室から王都全域の行政状況を掌握している。


 エイレンは、メインルームで地図上の駒を動かしながら不敵に笑った。


「準備万端だ。……法の網と、路地裏の罠。どちらもたっぷりと味あわせてやる」



          ◇


 私は魔法映像を見つめた。


 映っているのは城下、第一区画。


 松明の明かりが川のように流れる大通り。


 進軍する騎士団の先頭を行く隊長が、突如として足を止めた。


「な、何だこれは!?」


 彼らの行く手を塞いでいたのは、剣を持った兵士でも、魔法の障壁でもない。


 ——黄色と黒の縞模様で塗られた、巨大な『工事用バリケード』と、仰々しい「看板」だった。


『——あーあー。警告。警告します』


 街路樹に設置された魔導機械から、クラリスの事務的で、しかし絶対的な響きを持つ声が轟く。


『現在、王都再開発計画に基づき、この道路は『緊急下水道改修工事』のため全面封鎖されております。許可なき者の立ち入りは、道路交通法第12条により固く禁じられています』


「はぁ!? 工事だと!? ふざけるな、今は緊急事態だぞ!」


 隊長が叫ぶ。だが、スピーカーの声は止まらない。


『当該区画への無許可侵入は『公務執行妨害』および『不法侵入』に該当します。……騎士団の皆様におかれましては、『法の番人』として、まさか国法を犯すような真似はなさいませんよね?』


「ぐッ……!?」


 隊長が言葉に詰まる。


 彼らは敬虔な信徒であり、騎士だ。


 『秩序』を守る側の人間として、『法を破る』ことには本能的なブレーキがかかる。


 バリケードの向こうには、工事用のヘルメットを被った(ふりをした)衛兵たちが、無表情で誘導棒を振っていた。


 あまりに日常的で、事務的な光景。


 それが逆に、騎士たちの戦意を削ぐ。


「隊長! どうしますか!? 強行突破すれば、我々が『犯罪者』になります!」


「ええい、知るか! だが……!」


 進軍が停止する。


 数千の足が止まる。


 モニター室で見ていたエイレンが、鼻で笑った。


「……はっ。傑作だな。真面目な騎士ほど、この『紙切れの盾』には弱い」


「ああ。クラリスの性格の悪さがよく出ている。……最高の褒め言葉だがね」


 物理的な壁なら壊せばいい。


 だが、『法律』という壁は、彼らの正義感そのものを人質に取る。


 このまま膠着状態に持ちこめるか——そう思った、矢先だった。


「……嘆かわしい」


 騎士たちの列が割れ、純白の馬車から一人の女性が降り立つ。


 見える。


 白く整った……左右に分けられた長い髪。


 教区長、リュシエル・アストゥラ。


 彼女はバリケードを見上げ、ゴミを見るような冷ややかな目でため息をついた。


「工事現場ひとつに足を止めるとは。……貴方たちの信仰は、その程度ですか?」


「きょ、教区長! しかし、これは国法で……」


「神の道に障害はありません。……前にあるのは『不浄』のみ」


 リュシエルが、スッ、と白く細い手をかざす。


 詠唱はない。


 ただの意思の発露とも思える。


 ——ドォォォォンッ!!


 純白の閃光が放たれ、バリケードごと道路が吹き飛んだ。


 高威力の単体祈跡『焔神の放つ熱情の律動グレン・ブレイズ


 『工事中』の看板が木っ端微塵になり、燃え上がる。


 爆風に煽られ、騎士たちが尻餅をつく。


「な……ッ!?」


「見なさい。道は開かれました」


 リュシエルは燃えるバリケードを踏み越え、振り返った。


 その背後には、破壊された『法』の残骸が転がっている。


「これが神の意志です。……進みなさい」


 狂気。


 彼女にとって、自分の行動こそが絶対の「秩序」であり、国の法律など道端の石ころ以下なのだ。


 騎士たちは恐怖と崇拝で洗脳され、再び進軍を開始した。


「神の意志だ……!」


「進めぇぇッ!!」


  状況は二転三転……それも一人の強固な信念と狂気の力によって一変した。



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