珍客
ディンセントのハイエフを触っていたのは男性だった。どこかの貴族のようにきちんとしたスーツをめかし込み、シルクハットを被る姿はこの場にそぐわない。もちろん、主の島にいるということは、彼は人間ではないのだろう。
ウェーブがかった色素の薄いクリーム色の髪の男性は、呆気に取られるロカとディンセントとその隣で少し遠い目をしている主に見つめられてもなおハイエフのハンドルを動かしては、ふむと顎に手をやり何かを確認している。
「お、おい、聞いてんのかっ。勝手にハイエフに触るな」
立ち上がったディンセントは男性に詰め寄る。やっとのことでハイエフから意識を戻した彼は、釣り上がった目を大きく見開いてディンセントを見下ろした。
「これ、キミのかい?」
「あ、ああ、そうだよ」
「何だったかな?」
「あ?」
「名前」
「名前?」
「これの名前だよ、な・ま・え」
「名前って……ハイエフだが」
「おおっ、そう! ハイエフ!」
「……」
「マーベラスだ、ハイエフ! えと、何だったかな……そう、エアロハイカーよりもかっこいいじゃないか!」
「……」
引き気味なディンセントを置いて男性は一人、目を糸のように細くして盛り上がっている。ディンセントは顔だけロカと主の方に向けた。
「んふー、軽騎士の瞳が物語ってるねぇ」
瞳だけではなく全身から何だこいつオーラを全開で発しているディンセントに、主は苦笑した。
「おーい、そのハイエフってやつは、軽騎士の物だぞー」
ハイエフについて一人でスピーチを始めていたシルクハットの男性は、主の声に振り返る。
「おやおや、ご機嫌よう、主」
「ご機嫌だねぇ」
「フフン、それはそうさ。なんてったって、こんなに間近で人間の乗り物を堪能できるのだからね」
「そりゃ良かった」
「……うん? 主、さっき、このハイエフは軽騎士の物だって言ったかい?」
「うん、言った言った」
「軽騎士って?」
「そこ。アンタのすぐ傍にいる人間さ」
シルクハットの男性はまたもや目を大きく釣り上げて、ディンセントを見つめる。細身でかなりの高身長で、ディンセントは思わずノックス軽騎士長を思い出した。
「おおっ、キミか! このハイエフの持ち主とやらは!」
突然の大きな声と共に肩をがしっと掴まれたディンセントは、気圧されて一歩引く。
「そっ、そうだけど」
「マーベラスだ! ぜひ、ハイエフをためつすがめつ眺めさせてくれないかっ」
「ためつすがめつ」
「そう、色々な角度からしげしげと! 棚ぼた的に跨らせてもらえるともっと良い! ああっ、自然にはないこの人工美は何とも言えない冷たさと哀愁があるのだよ!」
変態臭いというか変態まっしぐらの言葉に、ディンセントの背中に寒気が走った。主も少し変わり者かと思っていたが、目の前の異常さには霞むほどだ。ロカを見たが、相変わらずにこにこしているだけでまったく頼りにできそうにない。
「わっ、分かった、分かったから!」
「本当かいっ?」
「あーもう、ちょっとだけだぞ!」
以前として肩を掴まれたままキラキラと輝かせる紫色の瞳で覗き込まれたディンセントは、興奮の圧力にまたもや一歩引く。
嬉しさで煌めく蝶や花を撒き散らしそうな勢いのシルクハットの男性は、ハイエフの観察に早速取りかかった。
「ふむふむ、ここはこういう機構で動くんだね、なるほどー。じゃあ、こっちは……」
「んふー、もう仲良しさんになったんだねぇ、軽騎士」
「どこが!?」
足早に主へと近寄ったディンセントは、シルクハットの男性を指差す。
「おい、何だアレ」
「面白い奴でしょ」
「ただの変態にしか見えん」
「んふー、初対面なのに辛辣だねぇ。まぁ、確かに、変わった奴だよねー」
「あいつもソラニル……だよな?」
「もちろん。見てて分かる通り、アイツは人間の乗り物が好きみたいでさ。ああやって人間の乗り物を愛でたり触ったりとハァハァしては日々妄想することを趣味にしてるみたいだよー」
「やっぱり変態じゃねーか」
「力は強いんだよー? 化けるのが得意な特異な能力持ってるし」
「力が強い変態なんて最悪じゃねーか」
目の前で繰り広げられる茶番劇のような事態にもにこにこと微笑んでいるロカだったが、ふいに飛んできた一羽の鳥のソラニルの様子に気付き、その笑みを潜めた。
シルクハットの男性の紹介の仕方に、主の悪意というオチャメ感を感じます。
/// 雑談 ///
とてつもなくお久しぶりでございます。
皆様、お元気にされていますか。
のっぴきならぬことなぅな状態でしてなかなか更新がままなりませんという言い訳です、ごめんなさい。
とにかく、おちこんだりもしたけれど、私はげんきですという言葉をお借りして生存報告しつつ、日々頑張っています。
細々とでも更新していきたいと思っていますので、お時間がありましたらこれからもどうぞご贔屓に。




