カマラドとは
ディンセントはロカを見つめながら素直に思った。
ソラリコとカマラドの違いは何なのだと。
それに答えたのは主だった。主は今度は彼の無知を馬鹿にせずに答える。
「特定のソラニルとソラリコの間で深い絆を結んだ者たちのことをカマラドと呼ぶ」
「絆?」
「ああ。カマラドとなった者たちはお互いを守り、能力を高め合い、その者たちだけの固有の力を手に入れる。大事な相棒ってわけだ。昔、世界は穏やかじゃなくてな、鎮めるためにもカマラドの力が必要だったんだ」
まぁ、オレは代替わりした島の主だから昔の話は聞いただけなんだけどなと、主は笑った。
「じゃあ、カマラドってのはソラリコより強いってことか?」
「強さは関係ないわ」
「んー、まぁ、カマラドになると相乗効果ってやつで力が強くなるし、ソラリコより強いっていうのも間違いではないんじゃない?」
「うーん……まあ、固有の力を持つことは確かよ。私の場合は身体能力かしら。例えば、ほら、重たい物を担げるでしょ?」
「騎士も担がれてやって来たもんねぇ」
ディンセントを見る主はぷっと吹き出す。ディンセントもあの格好を第三者の視点から見たらさぞかし滑稽だったろうとは思うが、今ここで蒸し返さなくてもいい話を蒸し返す面倒な主をじとりと睨んだ。
茶化すように肩を竦めながら主は目を上に向け、話題を切り替える。
「そうそう、カマラド、アンタの相棒とウルシュトラツカの話だったね」
ロカの肩がぴくりと動き、穏やかだった彼女の周囲の空気が途端に固くなる。風が吹き、その長い金の髪がシートの上でなびいた。
主は真剣な眼差しでロカを見つめる。
「少しでいい、知っていることを話してくれないか。オレは、ウルシュトラツカが落下したあの時、何があったのか知りたい」
「……」
ディンセントも無言で彼女を見つめた。
少しの間の後、ロカは小さく頷く。そして、口を開いた。
ウルシュトラツカの民はほとんどが逃げ出せたこと。
ウルシュトラツカの主には会えなかったこと。
主の部屋は、すでにヨミであふれていたこと。
ヨミの沼の中に、一瞬、青い毛並みが見えたこと。
ショルショパンという少年に助けられたこと。
あの子と呼ぶロカの相棒には会えなかったこと。
それは、城の中庭でディンセントが立ち聞きした内容とほぼ同じだった。
ロカの言葉を聞いていた主は、ロカの話が終わった余韻の後、静かに語り出す。
「その青い毛並みは……恐らく、ウルシュトラツカの主だろうね」
「主が、ヨミに飲まれたと言うの?」
「主がヨミに負けるなんて想像だにできないけどねー。でも、あそこで青い毛並みと言ったら……」
「でも、あの子も青い毛並みなの。ヨミに飲まれたのはあの子かもしれないって思うと、私……」
ロカは苦しげに目を閉じる。ディンセントは、その辛そうな横顔をただ見つめていた。
「いや、青い毛並みの者がヨミに飲まれた後にウルシュトラツカが落ちたということは、つまり、ヨミに飲まれたのはウルシュトラツカの主で間違いないだろう。カマラドの相棒の行方は分からないが……その時、カマラドの相棒はウルシュトラツカにいたのかい?」
眉を寄せたロカは首を振った。
「それは……分からない。でも、あの子は普段、ウルシュトラツカにいるって言っていたの。そして、ウルシュトラツカが落ちた日から会えなくなった」
「うーん、そうかぁ」
主は頭を掻いた。
「ちなみに、カマラドの相棒は威風堂々とした屈強な肉体のソラニルかい?」
「いいえ、まだ子どもよ」
「じゃあ、少なくともウルシュトラツカの主がロカの相棒ではなさそうだ。でも、カマラドの相棒も青い毛並みなんだろ? ということは……ウルシュトラツカの主の血族かもしれないな」
それは、かなりの力を持ったソラニルということになる。主はロカの青い石のイヤリングを見つめ、指を差した。
「その、耳の青い石。相棒に貰ったんだろ?」
「ええ」
「それは、島の主になれる資格がある者だけが持つ石だ。オレのこれみたいにさー」
そう言って主は額に触れる。額に縦に一本の筋が入ったかと思うと赤い石が現れた。獣の姿のときに見えていた赤い石だ。
「この石を人間に渡すなんてよっぽどだねぇ。カマラドってのは、それだけ結び付きが深いってことなんだろうなぁ」
ロカは自然と青い石に触れていた。あの子と初めて出会った青白い夜に貰ったものだった。
主の話を聞くに、とても大事なものだと分かる。そんなものをロカに渡してくれたあの子は、青い石を残して消えてしまった。
ディンセントは、ロカの唇がぎゅっと噛み締められたのを見て思う。
彼女は今までどれほど大変な経験をしてきたのだろう。
たまに垣間見る、あの背筋がぞっとするような気配のロカは、これまでの彼女が経験した複雑な事情に起因しているものなのか。あの獣のような目は、ソラニルとの特殊な繋がりによるものなのか。
ロカに何と声をかけていいのか分からない。そう眉をひそめるディンセントの耳に、カチャカチャと不自然な音が聞こえてきた。
音の方へと振り返った彼が目にしたのは、ハイエフを勝手にいじくる男性の姿だった。
「……え、ナっ、何してんだ!?」
突然の出来事にディンセントの声が裏返る。近くで主が、あぁーという乾いた声を出した。
主と島は一心同体。




