にこにこ
ロカはにこにこしている。
理由は、目の前で繰り広げられている主とディンセントとのやり取りを眺めてだ。
「えっ、今の人間って、島に主がいるってことも知らないのっ?」
「ああ。俺もさっきまでお前やこの島の存在を知らなかった。他の島はどうか知らねぇけどな、コハントルタはほとんどソラニルと交流がないから」
「ったー、なんてこったぁ。まさか存在すら消えてるとはなぁ」
主は大袈裟に溜め息を吐いた。
「別に、悪気があって知らないんじゃねぇよ」
「はいはい、あることを知らないからってことだよな。まぁ、そうかぁ……そう言われたらオレも、最近の人間について知ろうとしてなかったもんなぁ」
お互い様かと、苦い顔をした主は頭を掻く。その姿を見ても、ロカはにこにこしていた。
主とディンセントが、ソラニルや人間という種族を関係なく話をしている。ディンセントの言葉使いは島の主に対してはいささか不敬な気もするが、主はきっとこのフレンドリーな感じを好むのだろう。お互いずっと喋り続けている。この光景だけで、ロカは嬉しくなるのだった。
そんなロカの心情に気付かず、ディンセントは話を続ける。
「今のコハントルタでは、ソラニル関係のことが勉強で出てくることもないし、口伝えで聞くってこともないし。まぁ、昔は町にもソラニルがいたってのは聞いたことあるけどな。昔はソラニルについての教えでもあったのか?」
「ははっ、まさかぁ。隣人と仲良くするのに教本なんているのかい? お互いのことを知って、認めて、好ましい交流をするだけだよ」
「何か偉そうに言ってるな……じゃあ、なんでコハントルタの人間がお前のことを忘れたのかは分かんねぇんだな」
「あー……まぁ、急に変わった時期はあったよ」
くいっとグレープジュースを飲み干した主は、肩を竦めた。
「確か最初は……もう何世代前か忘れたけど、その時のコハントルタ国王がやたら堅物でさ、何だっけ……要するに、国王と島の主との交流は仲良しこよしだけでは駄目みたいな考えらしくてさぁ。無闇にお互いの領域に侵入しない方がいい、ソラニルと人間との交流には節度が必要だとか言ってきて」
「極端だな」
「でしょでしょ? 急に言われてもこっちも混乱するし、何度も話し合ったけど、お互いの良い関係を続けるためにも必要な措置だと頑なでさ」
風にそよぐ葉の音が耳に入ったのか、主はぼんやりした顔で見上げる。
「あー、オレたちのことが好きじゃないんだなって、思ったよ」
自分で言ってその言葉に傷付いたらしく、主は唇を真横に引いた。
「そこからはなし崩しさ。主の島が見えていると人間が間違えて入って失礼な事態になる可能性があるから、島を見えないようにできないかとか、お互いの距離を置くことばかりの提案だったよ。もう、話し合う気力もなくなってきてさ、まぁ、今に至るってわけ」
主の話を信用すると、コハントルタで人間とソラニルの交流がなくなったのは、そのコハントルタ国王の政策が原因なのは明らかだった。
当時のコハントルタ国王の考えなど理解できるわけがないが、面倒なことをするものだ。外交とはそういう面倒なものなのだろうとは考えるが、同じ島に住む者同士で他国のような外交は必要なのだろうか。
少しソラニル寄りの考え方になっているのは目の前の主のせいだろうなと、ディンセントは主の表情を見ながら思った。
ロカは相変わらずにこにこしている。
話の内容は憂慮すべきものだが、それよりもディンセントがソラニルに対して心を砕いていることがロカにとっては嬉しい発見だったのだ。ディンセントが言っていたように、ただソラニルのことを知らないだけで、ソラニルと仲良くできる人がもっと他にもいるかもしれないという期待を抱かせるに充分な交流を目の当たりにしているのだ。
そんなロカにやっと気付いたのか、ディンセントは変なものでも見るような目で彼女に向き直る。
「……何だよ」
「ううん、何でもない」
ロカはグレープジュースを一口飲むと、主に話しかけた。
「ねぇ、主さん。私からコハントルタ国王に今のことを話してみようかなって思っているのだけれど、どう?」
「え?」
「ちょっ、ロカ、」
「だって、ソラニルとの交流がなくなったのは、ずっと前のコハントルタ国王が決めたことでしょ? 今のコハントルタ国王とは考え方が違うかもしれないもの」
「いや、だからってお前、」
「それとも、今のコハントルタ国王も話を聞いてくれない頑なな人なのかしら?」
「馬鹿を言うな、現コハントルタ国王は誠実なお人柄だ!」
「だったら、話してみたらいいじゃない」
仕えているコハントルタ国王に対してのロカの言葉にカチンときたディンセントだったが、彼女はあっけらかんと笑う。
「いや、カマラドにそこまでしてもらわなくても」
「だって、今でも主さんとコハントルタ国王との交流はほぼないみたいなものなのでしょう? だったら、まずは私からコハントルタ国王に話してみるのもいいかなって思って。きっと、まだ、少しはカマラドという立場も役に立つと思うから」
「あー、その、まぁ……、」
にこりと微笑むロカに言葉を濁しながら頬を掻いて悩む主だったが、ふいにぶるぶると頭を振った。
「……いや! そういうことはオレから話すよ、うん」
「そう?」
「ああ。だって、オレ、主だし?」
何故かドヤ顔になる主に、ロカは笑った。
「ふふっ。うん、分かったわ」
「……」
ディンセントは開いた口が塞がらなかった。いくらソラニルが不憫だとはいえ、コハントルタ国王に直談判など、彼女は何を考えているのだろうか。いや、ソラニルのことしか考えていないのか。
それよりも……。
「さっきから聞いてるんだが、その、カマラドっていうのは何なんだ」
思わず、ディンセントは疑問を口に出していた。
そろそろグレープジュースでお腹たぷたぷではないですか、皆さん。
/// 雑談 ///
プライベートで色々あり、投稿間隔が空いてしまいました、ごめんなさいm(_ _)m




