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ソラリコ  作者: 春鳩るい
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過去形

 ロカは目を輝かせてソラニルを見つめる。


「すごい、いきなり主さんに会っちゃった」

「そりゃあさぁ、島の近くで超光ってるものがあったら気になるでしょー」

「あっ、それは、本当にごめんなさい」


 主と呼ばれるソラニルは鼻を少し高く上げる。


「アンタ、この前も来てたよね」

「はい、クゥムーと一度。そのときは挨拶できなくてごめんなさい」

「いいよ、どうせクゥムーが挨拶いらないとか言ったんでしょ?」

「あー、えと……夜も遅かったですし」

「ふふん? あと、丁寧な言葉とかいらないからさぁ。面倒なんだよね」

「あ、はぁ」


 主はふんふんとロカの匂いを嗅ぐ。


「アンタ、カマラドだね。カマラドに会うのはなかなか久しぶりだなぁ」


 主は興味ありげに片目を大きくした。


「ええ、今はもう数えるほどしかいないの」

「あー、もうそんな感じなのかぁ。随分遠くなったんだなぁ、オレたちの境界」

「……」


 ロカは寂しげに目をふせる。右耳の青い石が揺れた。

 主はその石の青さを瞳に吸い込む。


「へぇ……もしかして、アンタの相棒ってすごいんじゃない?」

「え?」


 突然の言葉に、ロカは目を丸くした。青白い獅子の姿が目に浮かぶ。

 首を捻る主は好き勝手に喋り続ける。


「まず、アンタの相棒はクゥムーじゃないでしょ? アイツも力はあるけどさぁ、んー、何ていうか、アイツはそっちじゃないっていうか」


 主の言いたいことが分からず、ロカは困惑していた。そんな彼女の横からディンセントが口を挟む。


「あ、あの……なぁ、何でソラニルが喋ってんだ?」

「えー、何ソレ、冗談?」


 主はケラケラと笑った。


「力のあるソラニルは人間の言葉を喋るんだよー、アンタ知らないの?」

「え、じゃあ、クゥムーは」

「んー、さぁ? アイツは喋れないんじゃなくて、喋らないんじゃない?」

「……」


 理解できているのかいないのか、ただ絶句するディンセントに向かって、今度は主が話しかける。


「んー、アンタのその服、コハントルタの騎士だよなぁ」

「えっ、あ、ああ」


 主はふんふんとディンセントの匂いを嗅ぐ。


「そうだよなぁ、コイツじゃないよなぁ」

「?」


 ディンセントは眉をしかめたが、それを気にせず主はロカへと向き直った。


「なぁ、カマラド。アンタの相棒はどうした?」

「!」


 ハイエフが軽く揺れる。傍から見ても分かるほどに、ロカは動揺した。


「……」

「ん? どうした、カマラド?」

「……あの子は……あの子とははぐれてしまって、ずっと会えていないの」

「はぐれる?」


 驚きの色を隠さない主の声に、ロカは俯いた。


「はぐれるって、え? この世界で? 何で?」

「……私にも分からない。でも、あの子は消えてしまった。ウルシュトラツカの崩壊にまぎれて、私、あの子を見失ってしまったの」

「ウルシュトラツカ……」


 主の声が低くなる。

 ディンセントはそれの意味を思い出した。確か、コハントルタよりもずっと北にあり、今は落ちてなくなってしまった島の名だ。


「……そうかい。何か、色々あるみたいだなぁ」

「……」

「どうだい、とりあえずはウチの島に来なよ。こんな所で立ち話も何だからさぁ」

「でも、クゥムーはいないって、」

「アイツはそのうち帰ってくるからさぁ。それよりも、せっかく久しぶりにカマラドに会えたんだし、それに、相棒のことはオレでよかったら話を聞くぜ」

「え、でも、主さんにそんなこと……」

「はは、構わないって。ま、オレでもどうにもできないかもだけどさぁ」


 ふっと主の目が真剣になる。


「それに、ウルシュトラツカについてはオレも知りたかったんだ」

「……うん、ありがとう」

「ふふーん」


 主は目を細める。そして、ロカからディンセントへと視線を移した。


「うーん、コイツも連れてく?」

「な、」


 ディンセントは、いきなりソラニルに前足で差されて眉間に皺を寄せる。


「だってさぁ、うーん……」


 主はジト目でジト目の騎士を見る。


「アンタ、騎士だけどさぁ、カマラドを護衛してんの?」

「えっ! ああ、いや、その、まぁ、こ、こいつすぐに暴走するから、見張ってるだけだよ」

「へえー?」


 主は器用に前足を口に当て、ニヤニヤと笑う。嘘ではないが本当でもない答えだということを見抜かれたかと冷や汗を掻くディンセントだったが、その笑い顔に別の意味があったことをすぐに知る。


「その割には、アンタ、なーんも知らないんだなぁ」

「……は?」

「さっきからアンタ見てるとさぁ、全然分かってないみたいだし? 無知ってやつ? それにさぁ、その乗り物、夜も飛べないんでしょ? カマラドに運んでもらうって何? それでも護衛なの?」

「……ぁあ?」

「ちょっと、ディンセント!」


 主からの小馬鹿にした言葉の連打に苛ついたディンセントをロカが止める。ディンセントはニヤニヤしている主を指差した。


「何だよ、あの口悪い奴がいきなり突っかかっ、」


 ゴツンっと鈍い音がする。ロカがディンセントに頭突きを食らわせたのだ。まさか少女に暴力で止められるとは思わなかったディンセントは、一瞬目の前に星が飛ぶ。ロカは額を少し赤くしながら怒った。


「主さんに失礼は許さないわ!」

「……つっ、お、お前、その姿になってから何かおかしいぞっ!?」


 今のロカは明らかに暴力的だ。いや、本当は前からそうだったのだろうか。ディンセントは気付く。彼女のことを何となく知っているつもりだったが、それは上辺だけで、本当は何も知らなかったのではないかと。


「んふー、ウケる」


 二股の尾をゆらゆらと動かしながら、主は相変わらずニヤニヤしていた。


「まぁ、人間が色々覚えてないことなんて、オレはどうでもいいからさぁ。カマラドもあまり気にしなくていいよー」

「でもっ……」

「忘れていくことが、知ろうとしないことが今の人間の本質なら、無駄だって」


 今度は人間を小馬鹿にしたような発言をする主に、ディンセントは堪らず口を挟む。


「おい、勝手なことを言うな! そっちだって人間のことをよく知らないだろっ?」

「知ってる」


 急に主の顔から笑みが消えた。


「昔の人間のことなら、よーく知ってる」


 鋭い目がディンセントを射る。


「大好きだった頃の人間のことを、忘れるはずがない」


 威嚇の色は見えない。だが、赤い目に見つめられたディンセントは身動きできなかった。何とか動く脳内で言葉を反芻する。


『大好きだった』


 つまり。

 過去形、なのか。

ハイエフで両手が塞がっているので、ロカのおでこが火を噴きました。

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