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ソラリコ  作者: 春鳩るい
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理解

「……ロカ……」


 誰かが呼ぶ声がする。


「……ロカ!! おい、起きろっ!」

「!」


 ロカは目を開いて息を吸うと、勢いよく起き上がった。

 周囲ではさやさやと草が音を立てて揺れている。彼女が呆然としていると、上から声が降ってきた。


「お前、何でこんな所で寝てんだよ……」


 ロカが見上げた先にはディンセントの苦々しい顔があった。


「……え?」

「え? じゃねぇよ!」

「あ、私、あのまま寝ちゃった?」

「……」

「あの、えっと、どうしてここにディンセントが?」


 ディンセントは思いっ切り溜め息を吐く。


「あのなぁ……お前がどこにもいないってソラリコの連中から連絡があって、あちこち探し回ったんだぞ! ったく、当の本人はのうのうとこんな所で爆睡してるなんてな」


 ロカは辺りを見回した。丘の上で寝てしまったようだ。すぐ近くにハイエフが停まっているのが見えた。

 暮れ合いの頃らしく、辺りは薄暗い。星も見え始めている。


「お前、誰にも何も言わずに出かけたのか? 何でだよ?」


 理由を問われ、昼間の出来事を思い出したロカは思わず俯く。彼女の普段と違う雰囲気に首を傾げるディンセントだったが、まずは夜になる前に帰城することが先だと考えた。


「とにかく城に帰るぞ」

「……て」

「あ?」


 ディンセントは眉を潜めた。ロカの顔は見えない。


「何て言、」

「先に帰って。私、行く所があるから」

「は?」


 ロカは地面から立ち上がる。顔を背けているのか、ただ遠くを見ているだけなのか、ディンセントから彼女の表情は窺えない。


「何を言ってんだ、さっさと帰るぞ」


 ディンセントはそう言うと、ハイエフに手をかける。すでに日は暮れ、ハイエフは飛ぶことができなかった。


「ち、走るしかないか」


 こういう緊急時のため、ハイエフには車輪が内蔵されている。また、騎士団の特別仕様として、短時間だが地面を走ることが可能だ。

 ハイエフをいじっているディンセントの耳へと、ロカの声が届いた。


「じゃあ、ディンセントとハイエフだけお城に連れて行くわ」


 言っている意味が分からず、ディンセントはロカを見た。いつの間にか彼女はハイエフに手をかけている。彼らはハイエフを挟んで立っていた。

 やっと見えたその表情は微笑んではいるが、どこか形容し難い気配をまとっており、ディンセントはまじまじとロカを見つめた。

 彼女が重たい物を持てることは知っている。

 だが。


「……寝ぼけてんのか? 日は落ちたから、ソラリコの力は使えねぇぞ」

「大丈夫よ」


 ロカは笑う。寂しげな表情と共にぞっとするような光が目の奥で揺らぐ。


「だって私、ソラリコじゃないから」


 ピシリと何かかひび割れたような感覚がした。


 風がロカの髪を乱す。その瞳に光の粒子が流れる。手足から青白い光の粒子が舞い上がったかと思うと勢いよく翼が生え、彼女の髪が長く伸びながら銀色へと染まっていく。

 ありえない光景に、ディンセントは目を見開いたまま動けない。声も出せず、ただ目の前の出来事を赤い瞳に刻み込むだけだった。


 ロカは何事もなかったかのようにハイエフを持ち上げる。


「ほらね」


 ディンセントの喉が鳴る。心臓が高鳴る。


 目の前のこいつは、誰だ?

 ロカなのに、いつものロカではない。

 表現しづらいが、何というか、獣の気配が色濃く見える気がする。


 だけど。


 無言のディンセントにロカは微笑む。


「さあ、ハイエフに乗って。私、お城に連れて行ってあげる」


 そう言ってハイエフを下ろし、手を離そうとした。

 その手首をディンセントが掴む。


「!」


 ロカは驚いてディンセントを見つめる。

 ディンセント自身も自分の行動に驚いているらしく、その状態で固まった。数秒の後にはっと我に返り、こうなった経緯への理由を頭をフル回転させて考え始める。


『何かあっても、お前はロカの近くにいてやれ』


 そう、ソフィアンネから言われていた言葉を思い出した。


 そう、それだ。そのせいだ。


「……」

「……」


 ディンセントはロカを見たまま動かない。ロカもどうしたらいいのか分からず困惑している。

 薄暗い世界で青白く発光するロカはとても幻想的に見えた。


 ありえない。

 ありえない。

 常識外れもいいところだ。

 やっぱりこいつは普通じゃない。


 だが、ここで手を離すのは違うと思った。


「……あの、」

「ロカ、お前……、」


 ロカの声を遮り、ディンセントが話し始めた。


「お前、以前、城の屋根の上から俺と目が合っただろ?」

「!!」


 ぎくりとロカの肩が震えた。その反応を肯定と捉えたディンセントの瞳に鋭さが増す。


「お前……やっぱりか」

「えっ、あ、いや、そのっ……」


 思ってもみなかった話が飛び出して、ロカは慌てた。

 彼女の手首を掴むディンセントの手に力が入る。


「あいたたっ!?」

「おーまーえーなーっ! コハントルタ国王のいる城の屋根に上るなんて、馬鹿なことやってんじゃねぇぞ!」

「ごっ、ごめんなさいーっ!」


 これで、ソフィアンネがあの件についてあまり深く追求しなかったわけが分かった。ソフィアンネはロカのことを詳しく知っている。不審者がロカだと気付いたのだろう。日没後に青白い光をまとってソラリコの力が使える銀髪の者といったら、ディンセントの目の前にいるこの怒られている少女がまさにそれだ。


 青白く光るのも、髪が伸びるのも、髪の色が変わるのも、太陽のない世界でソラリコの力が使えるのも、理由は知らない。

 ただ。


 『特別』


 これか。

 ソフィアンネ様が口にしていたのは、このことか。


 彼は盛大に溜め息を吐くと、ロカの手を離した。


「ご、ごめんなさい……」


 おずおずとロカが謝る。ディンセントは頭を押さえた。


「謝るのは俺じゃなくて、まずはソフィアンネ様にだ。だから、城に帰るぞ」

「あ……」


 ロカは困ったように一歩下がる。


「あの、私、帰れないの」

「何でだよ」

「だって、私……もう、ソラリコじゃないから」

「もう?」

「だから、あのねっ、私、えと、クゥムーの所に行ってくる!」


 振り向いたロカが空へと駆け上がってしまいそうだったので、ディンセントは慌てて彼女の手を掴む。


「待てって!」

「お願い、行かせてっ」


 ロカの頑なな拒否に、ディンセントは舌打ちする。


「あーもう! だったら、俺も一緒に連れていけ!」

「……はい?」


 その言葉にロカはぽかんとし、そのあまりの呆けた顔にイラっとしたディンセントが彼女の額にデコピンを食らわせたのは言うまでもない。

ちなみに、城の屋根にいた時にロカの傍にいた大きい体格のヨロイクジラはクゥムーです。

カマラドのロカは素早く、クゥムーも体を大きくしないと彼女の動きについていけないためです。

体の大きさを変えられるというのは、一定以上の力を持つソラニルだけだと言われています。

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