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ソラリコ  作者: 春鳩るい
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的を得る

 わなわなと震えるディンセントを目にして、フェクサーは首を傾げながらロカと彼を見比べている。途端に顔色の悪くなった仕事中の騎士の態度を訝しんだレイブリックが眼鏡を上げた。心なしか、ステージ上のアルタとラズメリアの顔色も悪い。


 ディンセントの勘は当たった。白いフードを被った女性が、ロカに伴われてステージに出てきたのだ。


「……!」


 ディンセントは言葉と呼吸を飲み込む。


「あんな子、うちのソラリコにいたっけ?」


 フェクサーは呟いた。フードを目深に被っているため、表情はほとんど分からない。それに、セイラー服を着ていない。

 ロカはフードの女性をステージに連れてきながら、何か彼女に説明しているようだ。


 ステージを見たまま固まってしまったディンセントを置いて、舞いは始まった。


 フードの女性の踊りは素晴らしかった。他の三人のソラリコも頑張ってはいるが、手先足先の表現から身のこなしまで、フードの女性は飛び抜けて上手かった。

 踊りに含まれていた治癒術式を、フードの女性が広場に向けて大盤振る舞いしたらしく、観客の泥酔や食べ過ぎなどの体調不良が改善し、飲食の売り上げが過去最高になったと後に言われている。


 ステージを見て愕然としている同僚の異様な姿に、レイブリックの脳が高速回転を始める。

 フードで視界は遮られているだろうに、それをものともしない所作。ここまで完璧な踊りを披露するのは誰だろうか。それに、ディンセントがここまでショックを受けるのは何故だ。そもそも、どうして今回のペテに限って警備が必要なのだろう。

 最後の疑問は単にロカの護衛のせいなのだが、そこまでレイブリックは知り得ておらず、誤った情報のまま一つの可能性を導き出す。

 まさかそれが的を得ようとは。


「……ディー」

「……」

「おい、まさかとは思うが、あのフードの女性って、」

「し、知らん! 俺は知らんぞ!」


 突然、声を上げたディンセントは頭を抱えている。レイブリックは自分の仮説が間違っていないことを悟り、さすがに口元を引きつらせた。


「……冗談だろ」

「え、何、何ー?」


ぽかんとしたフェクサーを残したまま、ステージと観客の興奮は最高潮に達した。


 後で、ロカがアルタとラズメリアとディンセントからお小言を貰ったのは言うまでもない。


「ステージの裏でサラさんが曲に合わせて楽しそうに踊っていたのが見えたから、次もソラリコの基本的な踊りだし、どうせならステージで一緒に踊ればいいと思ったの」


 まったく悪気のないロカに、全員、二の句が継げなかった。一国の姫君を町の小さな祭りで踊らせてしまうなんて、外交問題になりかねない。


「急でちょっと驚いたけれど、ステージに誘ってくれて嬉しかったわ。私、今日、たくさん良い経験をさせてもらったわ、本当にありがとう、皆さん。……そして、アルタさん」

「はい」


 サラシーラは声を辿ってアルタに近付くと、ぎゅっと抱きしめた。それを見たラズメリアは、ぴゃっという変わった声を上げながら肩をびくっと震わせて眼鏡を盛大にずらしている。二人を見つめるエルシアンの目が羨ましいと語っていた。


「あなたのおかげでとても素晴らしい一日になったの。アルタさんに出会えて幸せだったわ、本当にありがとう」


 急に抱きつかれて驚いていたアルタだったが、サラシーラの温もりと優しい香りに包まれ、ふっと微笑む。思わず姉の顔が浮かんでいた。


「ぼくも楽しかったので、そう言ってもらえて良かったです」


 サラシーラはにこにこと笑う。このように当事者のサラシーラはとても上機嫌で、傍の従者たちは頭を抱えてはいたものの抗議をされなかったのがせめてもの救いだった。無礼の数々をこのまま見逃してくれるだろうか。ロカを除いた全員が心の中で願っていた。


 そんな中、アルタから離れたサラシーラがふいにロカの近くで匂いを嗅いだ。


「あら、私ったら……ごめんなさい。でも、この匂い、あなただったのね」

「?」

「うふふ、好きよ、この匂い。私の妹の匂いに似ているわ」


 口元を押さえて微笑むサラシーラは、そう言い残して嵐のように城へと帰っていった。




 ペテは過去最高の盛り上がりを見せ、その幕を閉じた。祭りの関係者たちは成功を喜々とし、屋台の経営者たちも売り上げアップにほくほく顔で後片付けをしている。

 そんな陽気な空気の余韻を引き連れ、ロカたちは帰途へと着いていた。何故か、レイブリックとフェクサーも一緒だ。


「ホントに、今日は心臓がいくつあっても足りなかったよー」


 ちゃっかり目当てだったクレープを購入して食べているアルタの言葉に、ラズメリアとディンセント辺りはものすごく同意している。

 夢中でクレープを食べているロカに、ディンセントが詰め寄った。


「お前、本当に反省してるのか? 大体、いっつもお前は……、」


 ディンセントの小言が飛ぶ中、アルタは思った。

 ロカはためらいもなくサラシーラを連れ出した。その行いの善し悪しは別として、サラシーラが心の奥で焦がれていることを感じ取り、叶えてあげようとすぐに行動に移したのだ。

 ロカがアルタの立場だったら、アルタの姉をどうしただろうか。そんな考えが頭を過ったアルタだったが、すぐに首を振る。

 ロカはロカで、アルタはアルタだ。

 比べるのは、何か、違う。

 しつこくディンセントに怒られてあたふたしているロカが助けを求める顔でアルタを見ている。アルタは姉を心の中に仕舞い込みながら、仕方ないなぁと微笑んだ。


「はいはい、お小言もそこまで。ね、ロカはどうだったー?」

「うん?」

「ペテ、楽しかった?」


 ロカは唇の端に付いたクリームをぺろりと舐めると、アルタやラズメリアに向き直って白い歯を見せた。


「うんっ、すごく楽しかった! こんなにドキドキわくわくしたのは初めて。皆と一緒に踊るのって、こんなに楽しいなんて知らなかった」


 青空の中、雨空の中、夜空の中、独りで立っていたあの頃を思い出す。


「うん、本当に楽しかったの」


 ロカの髪が風に舞う。

 淡い金髪に光が散る。

 花が綻ぶように笑う。


「だから、一緒に踊ってくれて、本当にありがとう」


 たったそれだけの言葉。

 だが、あまりに直球なロカの感情にアルタとラズメリアは思わずぐっときたらしく、ロカへと抱きついた。


「何だよー、そんなきゅんきゅんすること言うなよー」

「ゔゔゔ、ロカちゃん〜〜〜」


 ディンセントは、クレープを落としそうになって慌てているロカを見る。そういえば、初めてソラリコに会ったときも嬉しそうに笑っていた。彼女にとってソラリコというのはそれほど価値のあるものなのだと、彼は改めて知った。

 常識外れであれ、特別であれ、根元の部分は夢を目指す一般的な少女の感覚。

 護衛という任務に溜め息は吐きながらも、ふいにディンセントと目が合い、先ほど怒られたことなどもう忘れてしまったかのように笑うロカの屈託のなさに、ディンセントもつられて一瞬微笑んだ。




 後日談として、ご機嫌のサラシーラは外交舞踊の際にものすごく張り切って舞い、コハントルタ国王をとても喜ばせたそうだ。

 ただ一人、楽しそうな出来事を見逃したと口惜しそうにソフィアンネが漏らしたのは言うまでもない。

余談ですが、ステージ上でロカがサラシーラに話していたのは、ステージの幅や皆との距離についてを大体の歩数で説明していました。

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