まさか
楽しげな音楽が響く。先ほどロカとセッションを楽しんだ相手がステージで演奏していた。賑やかな客の声や拍手が聞こえてくる。
ステージ上の鮮やかな音の跳躍と色彩をそっと見つめるロカの心には、今まであまり感じたことのない類の緊張の思いが打ち寄せていた。
ステージはとても眩しかった。もうすぐそこに、ロカも立つのだ。
「大丈夫ー?」
ロカの背後からアルタが声をかける。
「う、うん」
「はは、割と緊張してるんだね」
ロカの笑顔はどことなく硬い。迷子のソラニルの件で動じなかった彼女も緊張するんだなと、アルタはにっと笑った。
「まあ、ステージに出たときは緊張するけどさ、踊っていたらいつの間にか気にならなくなるよ」
「う、うん」
アルタの背後に近寄っていたラズメリアも、うんうんと頷いている。
「よーし、この曲の演奏が終わったら、ぼくたちの出番だよっ。演奏者さんたちが引き続きステージで演奏してくれるから、ぼくたちはその前に出て踊り始めれば、後は野となれ山となれ!」
「ふふ、アルタちゃんてば」
ラズメリアは微笑むと、ロカの手を握った。
「だ、大丈夫、大丈夫」
そう言って、アルタとも手を繋ぐ。ロカとアルタも目を合わせて笑うと手を繋いだ。
円陣を組んだソラリコたちは、微笑みながら祈るように目を閉じる。
「ぼくたちのヤタが皆に届きますように」
「クゥムーちゃんにも届きますように」
「いつか、人とソラニルが一緒に楽しめる日が来ますように」
三人の手足に光の翼が羽ばたき始め、暖かい光の粒子があふれ出す。
それを見つめていたサラシーラは微笑み、そっと目を閉じると、ロカたちと同じように祈り始める。翼の生えた手を両頬にかざし、流れるように彼女たちへと手を差し出した。暖かい光が彼女たちを優しく包み、体が軽くなるのを感じた。
ステージの音楽が終わり、拍手が響いた。
「さ、行くぞっ!」
目を開いたロカたちは、元気よくステージへと飛び出していった。
「おっ、出てきた」
フェクサーはステージ上に現れたロカたちを見つける。何だかんだでまだ彼らと共にいたディンセントも、ステージに目を向ける。
ロカたちは音楽に合わせて手を広げ、体を回転させ、光の粒子を舞い散らせる。
おいしいご飯とお酒などの飲み物に加え演奏のステージですでに観客のテンションは高かったが、ソラリコたちの笑顔とステージ外まで漂ってくる光の粒子でさらに高揚しているのか、広場は応援の声と手拍子で盛り上がっていく。
「へー、ロカちゃんって最近ソラリコに入ったのに上手じゃん。なぁ、ディー?」
「俺に聞くな」
そう言うディンセントも、護衛対象がいるステージを見続ける。他のソラリコたちや演奏者たちと呼吸を合わせ、楽しそうにロカは踊っていた。淡い金の髪を翻し、空間を撫でる指先から光が飛散する。光の翼の向こうに青いイヤリングが煌めいた。
夢のために努力しているからこその踊りと笑顔に、観客は心が沸き立つのではないか。
「あの金髪の子がロカちゃんか」
「へー、なかなか可愛いじゃん。踊りも上手いし」
「お前、オハラさん推しだろー」
「それはそれ。オハラさんは綺麗なお姉さんで、ロカちゃんは可愛い妹みたいな」
「何だよ、それー。まぁ、分からんでもない……が! それよりも、ほら、アルタちゃんの元気ハツラツな踊りを見ろよ」
「ラズメリアちゃんの照れた感じも可愛いだろ」
「推し愛の推し合いは構わんが、皆の衆、くれぐれもイエスソラリコ・ノータッチの合言葉を忘れぬようにな」
「……」
「レ、レイー。ディーが凄い目でオレを見てくるー」
隣のソラリコマニアたちの話を聞いたディンセントは顔がひきつり、どう表現していいのか分からない感情を視線に込めてフェクサーに突き刺している。
「こんなもんだろ、男って」
相変わらず飲み物を飲みながら、レイブリックは淡々と話す。言葉こそ続けなかったが、片眉を上げてディンセントを見返すレイブリックの口元の微かなニヤけに、ディンセントはまたまた苛立つこととなった。
彼らがそうしている内に曲は終わり、次の踊りが始まるまでの時間を拍手が埋める。それを機にディンセントはレイブリックとフェクサーから離れようと振り向いたが、フェクサーの声に引っ張られてすぐに立ち止まった。
「あれ? ロカちゃん、何かステージ裏に行っちゃったぞ」
ステージを見ると、確かに、ロカの姿はない。ステージ裏で何をしているのだろうか。怪訝な顔でロカの動向を見ていたディンセントだったが、はっと思い付いたように目を見開く。
「ま、まさか……」
ディンセントの声が震えた。
イエス&ノータッチは基本です。
そして、どうやらディンセントは硬派な模様。




