情報収集能力
ペテの祭りは賑やかだ。人が入れ代わり立ち代わり訪れ、絶え間のない話し声と笑い声が沸き起こり、食器のガチャガチャした音が響き、食べ物と酒の匂いが漂う。早くも酒でできあがっている者さえいる。
ディンセント自身、ペテにはレイブリックやフェクサーと何度か来たことがあり、雰囲気や規模など何となく勝手を知っているようなものだ。確か、ソラリコが踊っていたのを見た気もするのだが、正直、あまり覚えていない。
テーブルと椅子が並び、人と食べ物でいっぱいの広場の中央を見ながら、その周囲を取り囲む屋台の前の道をディンセントは歩く。こうやって騎士が歩いているだけで、祭りのシチュエーションにありがちなちょっとしたいざこざなどの抑止力にもなるだろう。ただ彼としては別にペテを楽しめなくてもどっちでもいい人間なので、知っている顔に出会う度に制服の意味を聞かれては、今日が仕事とは運が悪かったなとからかわれるのがいい加減面倒臭くなってきているところだった。
「あれ、ディーじゃん」
テーブルからそう声をかけてきたのは、肉の串焼きを食べているフェクサーだった。横には何かを飲んでいるレイブリックもいる。昨日、この二人にペテに行こうと誘われたことを思い出した。そりゃ、こいつらここにいるよなと、ディンセントはげんなりする。
「お前、仕事って言ってたのはペテの関連だったのか?」
「ああ、ここの警備だ」
「うわー、ペテの日にペテの警備だなんて、ディーってば相当運がわりゅっ、」
「そうやって鋭利な武器の先端を突きつけてくるような野郎を取り締まる奴がいないといけないからな」
「こっ、こりは、ひふのくひれす」
肉の串を指差しながらいつものように片手で両頬を掴まれたフェクサーのことなど見向きもせず、レイブリックはディンセントに問いかける。
「今までで、ペテに警備なんてあったか?」
「あー、今日は何故か必要だと言われてな」
ロカの護衛だとは言えないし、言いたくない。知られたら、フェクサー辺りにどれだけいじられるか、面倒臭過ぎて考えたくもなかった。
頬を擦りながら、フェクサーが問いかける。
「じゃあ、今日踊るソラリコが誰だって知ってるの?」
「え? あー」
「えっ、お前、今日の出演が誰だか知ってるの?」
隣のテーブルから大きめの声が聞こえてきて、ディンセントたち三人は思わず聞き耳を立てる。
「うむ。先ほど、セイラー服を着たアルタちゃんを見かけたから、今回はアルタちゃんとラズメリアちゃんだと推測しているぞ」
「お前、さすがだな」
「見たのか、アルタちゃんを。しまった、俺、気付かなかったなー」
「お前、ラズメリアちゃんは見てないんだろ? 何で分かるんだ」
「アルタちゃんと一緒に組むのはラズメリアちゃんだと相場が決まっている」
「……」
ディンセントとフェクサーは一瞬無言になった。レイブリックは気にせず飲み物を飲んでいる。
「……すげぇ。だってさ、ディー、そうなの?」
「……あー、そうだよ」
「じゃあ、今日はその二人の踊りが見れるのかー」
「いや、実は最近、もう一人加わっている」
「え、マジか?」
「ああ、金髪の女の子だ。名前は、ロカちゃんという」
「……」
ディンセントとフェクサーは再び無言になる。隣のテーブルは青年五人でソラリコについて語り合っているようだ。
「あの情報収集能力、ヤバくない? もうロカちゃんのことまで知ってるぞ」
「あいつはソラリコマニアの奴だな」
「あ、なるほどー」
飲み物を置いたレイブリックがしれっと話し出し、フェクサーも頷く。その場でディンセントだけが頭に疑問符を浮かべていた。
「何だよ、それ?」
「ん、割と有名だぞ。うちの国のソラリコのことを誰よりも熱く応援している非公式の集団だ」
「……」
「ディー、人の趣味に怪訝な顔をするな」
「……いや、じゃなくて、ソラリコってそんなに人気なのか?」
「もぐもぐ、ディーってばそんなことも知らないのかー?」
二本目の肉の串焼きにかじりついていたフェクサーは、肉を飲み込んでそう言う。
「お前って、仕事とソフィアンネ様以外にはホント興味ないのな」
「あ?」
「ソラリコって、昔は国の行事でしか見かけなかったけど、今って色々な所で見かけるだろ。笑顔で踊ってて、かわいい子もいっぱいいるしさー、特にお年頃の人たちが放っておくわけないじゃん」
「……」
先ほどまでロカたちといたディンセントは絶句している。彼女たちにそんなに人気があるとは考えたこともなかった。
「でも、町中でソラリコが騒がれているのなんか見たことないぞ」
「ソラリコは国付きだからな。そこら辺は、公の職業に従事する者だと一般人も分かっているんだろう。それに、ソラリコマニアの連中には、ソラリコの仕事を邪魔してはいけないというルールが存在し、割と自警してくれているらしくてな」
「自警」
「そう。もちろんゼロじゃないが、俺たちはそっち方面であまり気を揉まなくていいってわけだ」
飲み物がなくなったらしく、レイブリックが立ち上がる。彼は呆然としているディンセントの肩を叩いた。
「お前、あのロカって子と知り合ってから、随分ソラリコに近しいところにいるみたいだから、こういう俗っぽいことも知っておいた方がいいぞ」
斜に構えたレイブリックの眼鏡の奥の瞳が光った。
「ディーは、案外そういうことろが真面目っていうか、ピュアなんだよな」
「てめぇ」
「はいはい。じゃ、飲み物買ってくる」
含み笑いのレイブリックを睨んだディンセントだったが、相手の言葉はどこか正論のような気もして何も言い返せなかった。二人のやり取りを見ていたフェクサーが、ディンセントに肉の串焼きを差し出す。
「まーまー。ディー、これ美味いから食べてみりょっ、」
「お前の食いかけなんぞいらん」
「とびゃっちり!?」
ディンセントはフェクサーの頬を掴んで締め上げながら、レイブリックの言葉を思い返していた。
腹が立つが、レイブリックの言い分が分からないわけでもない。
それに。
『ソラリコに近しいところにいるみたいだから』
あれは、もしかしたらディンセントがロカの護衛騎士に任命されていることを薄々感じているからの言葉ではないだろうか。
いや、護衛騎士とまでは知らなくとも、ディンセントが何か特殊な事案に関わっていると、あの持ち前の勘の鋭さと情報収集能力と頭脳で分析しているのではないだろうか。
……ありえる。
彼の能力に一目を置いているディンセントはそう思いながらも、ピュアと言われたことに対してのイライラが勝ってしまい、肉の串を持って焦る目の前の頬をギリギリと締め続けるのだった。
何だかんだで仲良し三人組です。
そして、ソ ラ リ コ マ ニ ア(真顔)




