ですよね
ペテの会場は、開場時間が近付くにつれてさらに騒がしさが増していく。
そのステージ裏では、両手を組んだラズメリアが笑顔を貼り付けたまま固まっていた。
「……ラ、ラズ、大丈夫?」
瞬きを忘れた彼女の目の前でひらひらと手を振るのはアルタだった。
眼鏡の奥で見開かれた瞳に映るのは、にこにこと微笑むサラシーラの姿。アルタが連れてきた女性を一目見てウルクバッハの舞姫だと直感したようで、突然の電撃ショックによりラズメリアは石化してしまった。
「ラーズっ、おーい!」
「……ほっ!?」
アルタに強めに頬を突つかれてようやく我に返ったラズメリアは、軽くパニック状態でアルタを問い詰める。
「なっ、どっ、どどど、エエエっ!?」
「なははー、だよね」
振り絞るような小声のラズメリアは若干涙目である。
「サ、ササっ、サラサラ!?」
「うんうん、正解ー。えーっと、とりあえず色々あって、ペテに来られることになりました」
「はわわわわっ」
慌てふためくラズメリアを見るロカとディンセントはぽかんとしていたが、ワンテンポ遅れてディンセントの目がカッと見開き、次いで顔が青ざめていく。彼は滑るようにアルタに近付くと、押し殺した声で問い詰めた。
「お、おい……っ、」
「お、おや、どうしてあなたがここにいるんですかねぇ」
「ペテの警備だ。そんなことはどうでもいい、あ、あのお方はもしかして……?」
「あ、察する? 察しちゃいます?」
「……!」
「あ、でも、今は一般人だから」
「今って何!?」
ディンセントまで慌てふためく姿を見ながら、相変わらずロカは軽く首を傾げていた。彼女もサラシーラが来訪していることは知っているが、こういうことに関して疎く気にしない性格だからだろう。
予想通りの皆の反応に冷や汗を流しながら、アルタはサラシーラたちに仲間を紹介する。
「あの、こちらがソラリコのラズメリアとロカです」
「はわっ、よよよっよよよろしくお願いいたしますっ!」
「こんにちは」
「こんにちは、素敵なソラリコさんたち」
「こちらはコハントルタ国王立騎士団の軽騎士ディンセントです」
「おっ、お目に書かれて光栄です!」
「あらあら」
「(だから、今は一般人だって言ってるのにガチガチに畏まるなってば)……こほん。そして、皆、こちらはサラお嬢様。ぼくたちと同じソラリコなんだよー」
「うふふ、皆さん、こんにちは。ソラリコさんの舞いを近くで見たくて、アルタさんに無理を言って連れてきていただいたの」
そう言って微笑んだサラシーラを見て、ラズメリアはひゅっと息を吸う。ウルクバッハの舞姫と称賛されるソラリコに、自分たちの踊りを見学されるという唐突なシチュエーションへのプレッシャーは計り知れない。
空気が固まりそうになったそのとき、ステージから演奏が始まると共に広場が賑やかになった。人の声や何かを焼く音や食器の音がいっそう激しく踊り出す。たくさんの人が広場に集まってきているのが肌に伝わってくる。
ロカの心臓は高鳴り、体の中心がピリピリと痺れる気がしていた。
「あ、始まったね」
「あらあら、とても賑やか。うふふ、楽しそう」
「では、こちらに席をご用意していますので、サラ様たちはどうぞご自由にお過ごしください。あ、屋台のうさぎクッキー付きのフルーツクレープがおすすめです!」
「あら、素敵。エル、後で食べてみたいわ」
「サラ様に屋台を? う、うーん……」
白いフードの下をよく見るとサラシーラの髪には金色の蝶のヘアピンが、エルシアンは胸ポケットに黒色の蝶のヘアピンが飾られている。いつの間にかサラシーラたち用の席まで用意していた抜け目のないアルタはさり気なくクレープをアピールして護衛騎士たちをざわつかせた後、ロカとラズメリアに合流する。自分の頬に人差し指を当ててウィンクをした。
「さー、いよいよだねっ。ごめんね、色々あって遅くなっちゃってさ。ロカ、緊張してる?」
「うん、ちょっと緊張してるかな」
「うんうん、でも、まぁ、ぼくらが出演する頃には、お客さんはお酒で酔っ払ってるだろうからさ、あまり気にしないで大丈夫だよー。そうそう、席に座っているのはシュークリームとかクッキーとかだって思っておけばいいし」
「そっ、そそそそ、そうねっ、だだ、大丈夫、だいだいじょぶっ」
「えっと、ラズは一旦落ち着こっか」
「だい、大丈夫よよ、おおお落ち着いてるるわ」
「……あのね、サラ様はこのペテの祭りを見たいって言ってたからさ、ぼくら駆け出しのソラリコの踊りをそんな合否判定のテストみたいに真剣に見ないってば」
「う、う、うん。そ、そうね、そうよねっ」
「大丈夫よ、ラズメリア。私、頑張るから」
「ううう、ロカちゃん〜」
「うんうん。とにかく、練習どおりにいこー!」
「おー!」
ソラリコたちの元気なかけ声にサラシーラは微笑んだ後、ふいにスンと匂いを嗅いだ。
「うーん、先ほどから親しみのある不思議な匂いがするわ」
「ああ、お肉の焼ける匂いや飲み物の匂いが漂っているからですね」
「もう、エルったら。違うわ」
苦笑するサラシーラはロカたちの方を向く。
「爽やかに鼻を抜ける風と光の匂いに混じって、何かこう……香ばしいような甘いような匂いがするの」
「え?」
「やはりお肉の焼ける匂いや飲み物の匂いではないのですか」
「うーん、食べ物とは違う気がするのだけれど……」
「サラ様は嗅覚が鋭いですものね」
「ふふ、そうね」
サラシーラたちの会話をぼんやりと聞きながら、ディンセントは遠い目をした。今回はアルタが他国の姫君を連れてきたらしいが、この場にはロカもいるので、やっぱりこいつが関わると何かしらのアクシデントが発生するんだと、ディンセントは重く長い溜め息を吐いた。
ソラリコたちはストレッチや打ち合わせをしているようだ。
手持ち無沙汰になったディンセントはそれでもしばらくは舞台裏で待機していたが、ペテの警備と言った手前、ずっとここでロカを見ているのもおかしいので、少し広場を見て回ることにした。
あらあら、そうそう、ライトな人物紹介忘れてました。
サラシーラは、おっとり無意識振り回し系
エルシアンは、姫に甘い真面目小ボケ系
で、お送りします。
悪口ではありません。




