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ソラリコ  作者: 春鳩るい
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口が滑る

 今日はペテの日。賑やかなイベントに似合う晴れの日となった。


 ロカとアルタとラズメリアは、城の中庭で待ち合わせていた。ロカとラズメリアがベンチで話をしながら待っていると、眠たげな表情をしたアルタが遅れてやって来た。


「ど、どどどうしたの、アルタちゃん」

「んー、ちょっと夢見てさ……」

「夢?」

「ああ、ううん、何でもない」


 アルタはあくびをしながら思いっきり両手を上げて伸びをする。その姿を見上げながら、ラズメリアが口を開いた。


「さ、さあ、皆揃ったし、い行きましょ。わ、忘れ物はない?」

「うん……あっ、しまった! ペテの許可証もらっておくの忘れた!」

「あ、あらあら、じゃあ、とと取りに行きましょ」

「いいよいいよ。ぼく、今からセシルさんの所に行って許可証もらってくるからさ、二人は先に行って準備しといてー」


 ウィンクしながらぺろりと舌を出すアルタは言い終わるや否や、バタバタと走り去っていく。


「……アルタ、何だか様子が変ね」

「そ、そうね。ね、寝不足なんて……よっぽどクレープのことがきき気になったのかしら」

「そんなにおいしいのかな」


 そう言いつつも、何だか腑に落ちないロカとラズメリアは首を傾げながらベンチを後にした。


 セシルからペテの出演許可証をもらったアルタは廊下を急いだ。ペテの会場は島の南西の方なので、少し距離がある。ステージに充分に間に合うような時間に集合したのだが、やはりできるだけ早く皆と合流したい。

 城内で走るとソラリコの先輩たちから怒られるのだが、周りに誰もいないことを確認しながらそっと階段を走り降りた。


 一階には兵士が控えているので、一転、淑やかに挨拶をしながら城の裏口から出て西に向かう。城内をしずしずと歩くより城外を走るのが一番の近道なのだが、西には樹木によって作られた小さな迷路がある。秘密の花園のようなときめきの香りがする場所だが、今のアルタにはタイムロスをする面倒な造りでしかない。


 ふいにアルタは植え込みの木と木の根元に隙間を見つける。

 ショートカットできるかもしれない。

 そう悩んだ後、膝を着いてその小さなトンネルを潜り抜けた。


「何者だ」


 抜けた先でアルタを待っていたのは厳しい声だった。人がいると思ってもみなかったアルタは驚いて見上げる。


 ぱちっと、目が合った。

 いや、厳密にいえば目と目が合ったわけではないのだが、正面からアルタの方を見下ろしている人物と対面してしまった。ゆるくウェーブがかった淡い金色の長い髪をしたその女性は、不思議なことに目の部分を包帯で巻いていた。なので、アルタのことが見えていないと思いきや、彼女は微笑むとアルタに向かって手を振った。


「な……、」


 膝を着いた姿勢のまま、アルタは固まる。女性はふわふわとした雰囲気だったが、周りを取り巻いている三人の目が鋭くアルタを射抜いている。アルタに問いかけたのはこの三人の内の誰かだろう。帯剣しているようで、女性を守るように立つこの人たちは騎士のように見えた。

 視力を必要としない女性と護衛と思われる騎士。

 これは、まさか。


「ねぇ、そこのあなた。お城の方よね? ちょっとお聞きしてもよろしいかしら?」


 アルタの脳裏に、昨日の外交船と馬車が巡る。

 まさか、まさか。


「ふふ、大丈夫。木と木の間を抜けようとしたことは黙っておいてあげるから」


 彼女は目が見えていないだろうに、何故かアルタの行動が思いっきりバレている。いや、そんなことよりも……そう、彼女は話題の舞姫、サラシーラ様だ!


 どうして城の裏庭にいるのか全くの謎だったが、他国とはいえ王族を前にして無礼な振る舞いをしていることに気付いたアルタは慌てて礼を取る。


「し、失礼いたしました!」

「あらあら、バレてしまった? ふふ、いいのよ。まさか私がここにいるなんて思いもよらなかったでしょう」

「その制服……君は、コハントルタのソラリコか」


 サラシーラのすぐ傍に立つ女性騎士が言う。彼女は濃紺の髪をポニーテールでまとめ、鋭い瞳をしていた。


「あ、はい」

「あらっ、まあ、ソラリコさんなのね? ふふ、よろしくね」


 サラシーラ自身もソラリコであるので親近感が湧くのだろう、少し声のトーンを上げてふわりと微笑んだ。そんなサラシーラをよく見ると、白いフード付きのロングワンピースという軽装だった。三人の騎士も一般的な服装をしている。


 他国に来訪中に何故そのような格好を?

 そこで、はっと考えが過ったアルタは内心冷や汗を掻く。


 まさか、舞姫とは仮の姿で、今は一般人に姿を紛れさせて何かを行う重要な任務の途中だったとか……そこに偶然鉢合わせてしまったぼくは政略や権力の渦中に引き込まれ、運命の悪戯とでもいうのか、大いなる力に導かれて見たこともない世界へと、


「……もしもーし?」

「……はっ、はひっ!」

「あのね、町で何か楽しめることとか、どこか面白い所ってご存知かしら?」

「……楽しめる?」

「ええ。今日は自由に過ごしてよいので、町に出てみようと思って」


 アルタの妄想は、サラシーラの一言によって簡単に崩れ去る。固まっているアルタを気にも止めず、女性騎士がサラシーラへと小さく首を振った。


「このようにコハントルタ城の中を散策するのでもよいではありませんか」

「あら、エルシアン。せっかく他国へお出かけしているのですもの。私、町を見てみたいわ」

「しかし、ローグナント様がご心配なされます」

「お兄様は心配性なだけなの。お父様もお母様も、やりたいことをやってみなさいと常々仰っているわ。それに、町を見学する許可はソフィアンネ様にいただいているし」

「いつの間に……」


 ぽかんと呆けているアルタの前で、エルシアンと呼ばれたポニーテールの騎士は軽く頭を押さえた。


「だから、ねぇ。あなた、お勧めのものを知らないかしら?」

「はっ、はい、えーっと……、」


 突然にやってきた自分のターンに、アルタは慌てて頭を働かせる。何か面白いことがあっただろうか。楽しい、例えば、わくわくするイベント……イベント?


「あっ!? 忘れてたー!!」


 突然の舞姫との出会いが強烈で薄れていたが、そもそも木と木の間を潜り抜けた理由は何だったのか。アルタは頭を抱えた。


「急に大声を出して何だ」

「す、すみません! あ、あの、今日は町でペテという小さなお祭りがありまして、ぼくはそこで踊るので早く向かわなければならないのです」

「あら、まあっ」


 サラシーラは驚き、エルシアンは苦い顔をする。その表情を見たアルタはしまったと口を押さえたがすでに遅し。瞳を輝かせるサラシーラから出た言葉は、予想通りのものだった。


「お祭りと踊りだなんて、何て素敵なの! ねぇ、私も連れていってくれないかしらっ?」


 周囲の者たちは声が出ない。サラシーラはいそいそと長い髪の毛をフードの中に押し込んで被る。大きいフードは目の辺りにまでかかり、包帯を隠していた。鼻歌混じりの彼女は、もう決めたとでも言わんばかりに乗り気だ。


 無言のエルシアンに睨まれ、身の縮む思いのアルタは心の中で叫んだ。


 ラズ、ロカ、助けてーっ!!

仲の良い友だちでも、知っていること、知らないことは色々あるものです。

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