ぼくは夢を見る
ぼくは鏡を見て笑う。
肩より伸びた髪を指先で払った。
この水色のワンピース、肩ヒモが蝶々結びになっててかわいい。まだちょっと肌寒いから下に丸襟のシャツを着てるけど、夏はこれ一枚でいけるんじゃない?
両手を伸ばして、くるりと回って後ろもチェック。うん、後ろの一部だけプリーツスカートなのもかわいい。スカートの丈も膝が見えるか見えないかくらい。
うん、カンペキ!
用意してた紙袋を持って自分の部屋を飛び出して、隣の部屋のドアをノックする。灰暗い廊下の中、すぐ横にある窓が明るい。
「姉さん、入るよー」
ベッドの上でスケッチブックに向かっていた姉さんは、ぼくの姿を見つけると花のように微笑む。部屋の中も少し暗くて、窓から差し込む光が眩しい。
もうすぐ春がくる。
「あら、よく似合うじゃない、アルタ」
「でしょー」
ぼくは姉さんの前でくるりと一回転をして、スカートの裾を持ちながらピタリと止まる。
「んー、でも、肩の紐は蝶々じゃなくて、少し太めのシンプルな方がよかったかなぁ」
「えー、ちょうちょかわいいよ」
「だって、アルタの髪が絡まっちゃいそう」
「何それー」
ぼくは吹き出す。姉さんも笑った。
あ、そうそう、紙袋だ。
「はい、これ。一見、中のクリームが見えるタイプの普通のシュークリームだけど、そのクリームのところにチョコレートで猫の顔が描いてあってかわいいんだよー」
「わぁ、ありがとう。甘いものが食べたかったの」
姉さんは嬉しそうに笑った。ぼくはベッドの横に膝を着いて、姉さんのスケッチブックを覗き込む。
「何描いてるの?」
「ん? これはね、春のお出かけの洋服」
姉さんがスケッチブックをぼくの方に少し斜めにして見せてくれた。そこには、黄色のカットソーと、水色と白色のギンガムチェックのスカートが描かれていた。
「いいじゃん、春って感じ!」
「ふふ、カットソーはね、淡い黄色でとろみのある生地がいいかなーなんて思っているの」
ふわりと姉さんは笑った。
姉さんが考えるファッションはすごい。
どれもかわいい。うん、かわいい。
絶対に人気が出ると思う。
でも、姉さんが一番なりたいものは、ソラリコ。
おじいちゃんとおばあちゃんが二人共ソラリコだったから、姉さんにもその素質は十分にあると思う。人を手助けできる仕事がしたいって、皆を癒せるソラリコになるのが夢だって、姉さんは言う。
姉さんの踊る姿は、絶対に綺麗だろう。
でも。
「私も着れたらいいんだけどなぁ」
「着たらいいんだよっ。このワンピースだって、姉さんのデザインを仕立屋さんに頼んだやつだよ。これ、着てみようよっ」
「私は無理よ、痩せ過ぎてて体に合わないわ」
姉さんはぼくの頬に手を添える。
「だから、ワガママを言ってアルタに着てもらっているんじゃない」
「ワガママじゃないよー。ぼくが着たいんだもん」
「ふふ、ありがとう」
姉さんとぼくはよく似ている。双子ではないけれど、顔付きも髪の色もそっくりだ。小さい頃はよく間違われてたって聞いたし、今でもそっくりだと思う。
似ていないところと聞かれたら、それは体調だ。ぼくは元気なのに、姉さんは具合が良くない。以前は家族全員で出かけていたけれど、今ではほとんど無理になってしまった。
そんな姉さんがベッドの上で見つけた才能が、ファッションのデザインだった。きっと、自分が着て出かけたい格好を描いているんだと思う。
でも、今は無理。
だから、代わりにぼくが着ることにしたんだ。姉さんが着てお出かけするときのイメージが湧くように。髪を伸ばして、爪も綺麗に整えて。
服を着た最初はドキドキだったけど、スケッチブックに描かれた服を着たぼくを見て姉さんが喜んでくれたのがすごく嬉しかった。
だからぼくは、姉さんの代わりにかわいい服を着て、髪を結って、おいしいスイーツを探して、お出かけするんだ。
「私、全部は食べられないから、アルタ、半分こしよう」
「うん、いいよっ。って、あ、にゃんこの顔がつぶれたー!」
「あらあら、クリームが落ちちゃう」
こんな他愛のない時間が楽しくて。
「ねぇ、さっき服を仕立ててるって言ったけど、オーダーメイドってお金かかるでしょ。大丈夫なの?」
「うん、大丈夫! 母さんの知り合いに仕立屋さんがいてね、その仕立屋さんに頼まれて、ぼく、時々モデルもしてるんだー。だから、代わりに安く仕立ててもらってる」
「そうなの、すごい!」
そうやって、姉さんが笑ってくれるのが嬉しくて。
だから、ぼくは今日もかわいい服を着る。
姉さんの夢を少しでも叶えるために。
だから、ぼくは。
姉さんが亡くなった日、ソラリコになるって決めたんだ。
アルタの家は服飾関係の仕事をしています。




