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ソラリコ  作者: 春鳩るい
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舞姫

「来た来た。あれだよ、ウルクバッハの船」


 根元で編み込みをしたツインテールを揺らすアルタが城の廊下から指を差す。その先には、コハントルタに到着した一隻の飛行船がいた。

 通常の飛行船ならば島の南の港に到着するのだが、今回は国事の特別船のため、城の東側にある専用の港を使用している。小型だが重厚な造形とにじみ出る風格はさすが国の所有する外交船といったところか。


「少し前に、セシルさんが言ってた舞踊外交の船かしら?」

「うん、そ、そうなのっ、舞姫様」

「ラズー、アンタも好きねー」

「ほっ。だ、だだだってー」


 少しテンションが高いラズメリアの染まった頬を突ついているアルタを見ながら、ロカは首を傾げた。


「舞姫様?」

「ロカちゃんは、し、知らないのね。ウルクバッハの国のおお王女様で、ソラリコなの」

「王女サラシーラ様さ。幼い頃の病で視力を失ってしまったんだけど、ソラリコとしての力が強く、特に舞がずば抜けて上手いんだって。それを活かして、外交の際に他国で舞を披露してるんだよ。ウルクバッハの舞姫と言えば、サラシーラ様のことさ」

「へぇ、そうなんだ」


 ロカは興味深そうに飛行船を見る。船がやってきて他国の舞を披露するといった話をセシルがしていたのは、ざっくりだが覚えている。舞の上手な王女が踊るということか。


 ヤタは決まった所作がある。例えば、治癒術式ならば両手を両頬に添えてから対象者に向かって差し出す、防衛術式ならば目の前で両腕をクロスして祈るという所作だ。だが、ヤタを組み合わせた舞はその国の文化によって変わってくるので、基本的な舞以外は国ごとに独自の発展をしているところが見所でもある。


「あー、でも、ロカはそれどころじゃないかもだけどっ」


 アルタは指先の標的をロカの頬に変える。ぷにっと突つかれるロカを見ながら、ラズメリアがふふっと笑った。


「ロカちゃんは、は、初めてだもんね。ド、ドキドキ?」


 それは、明日のこと。月に一、二度、バザーや出張の飲食店や演奏者たちが集まるペテというイベントが町で開催されるのだが、そこでソラリコもヤタを披露することになっており、今回はロカ、アルタ、ラズメリアの三人が出演することになっているのだ。

 ロカははにかむ。


「うん、ちょっと緊張する」

「うんうんうん、そ、そうよねっ。わ、私も最初はききき緊張したの。でも、皆、た、楽しんでるからいっかって思って」

「そーそー。皆、飲んで食べて自由にしてるだけだからさ、気楽にしたらいいんだよ。パダガトに向けての練習みたいな感じ」


 そこでアルタは急にテンションを上げる。


「それよりもさっ、ペテにおいしいクレープ店が出店するらしいんだよー。果物たっぷりでさ、かわいいうさぎのクッキーなんかが付いてたりしてさっ、ぼく、それが楽しみなんだよー」

「も、もう、アルタちゃんたら」

「へへー、食べに行こうねっ」

「うん」


 ロカは笑った。ペテという小さな祭りで、ソラリコとして初めて踊る。緊張と共に楽しみで胸が躍る。

 ペテはヤタの発表の場としては充分だ。練習するけれども発表の機会が少ないソラリコたちに度胸をつけるための場にもなっているのだろう。


 ロカは友を思い浮かべた。クゥムーは割と賑やかなことを好むのだが、ペテに連れ出すのはさすがに無理だろう。この町はソラニルに悪い感情を抱いている人は少ないようだ。それでも、騎士団所属のソラニルや運搬などの仕事をしているソラニル以外のソラニルが町にいるのを見たことがないので、クゥムーがペテに参加したらきっと皆驚いてしまうだろう。ディンセントが怒っている姿も目に浮かぶ。

 いつか、ソラニルも一緒に楽しめる時代がくることを、彼女は祈っていた。


「さ、ささ、明日のヤタの、れ、練習をしましょ」


 ラズメリアはロカの背中を押して、廊下を歩き出す。アルタもそれについて行こうとしたが、ふいに外交船の所にある馬車が動き出した姿に目を止めた。中には舞姫が乗っているのだろうか。

 病が治り、ソラリコとして第一線で活躍している人。きっと辛いことも大変なことも色々あるだろう。


 でも。


「……視力を失ってもさ、生きてるんだから、ソラリコになれてるんだから。いいことだよ」


 微かに笑うアルタはそう呟く。少し遠くでロカとラズメリアの笑い声が聞こえる。


 静けさが増していくこの場から足を踏み出し、アルタは二人の後を追った。

横道に逸れたような逸れていないような話の位置でアルタをちょっと掘り下げます、ちょっと。

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