彼女の性格
コハントルタの城の庭は穏やかな空気が流れているのに、ロカとリザレオのいるこのガゼボだけは静まり返っていた。
「その後、ウルシュトラツカは落ちたわ」
リザレオは声が出せなかった。
かつて彼がいたであろう島の最後を聞いて。
そして、淡々と話す隣の少女が今まで経験してきたものを思って。
ウルシュトラツカはどんな風に落ちていったのだろうか。
手が震える。
そこに住んでいたことを全く思い出せないリザレオだったが、脳のどこかに刻み込まれているのだろうか、島のことを思うだけで何とも言えない悲しみや不安が打ち寄せる。
「結局、あれから友だちには会えていないの」
ロカの横顔は寂しげだった。そして、リザレオを少し横目で見ながら微笑む。
「ふふ、ごめんね。私も、リザレオにそんな顔をさせるつもりじゃなかったわ。でも、そう、あなたと同じ。ただ、聞いて欲しかったの」
「そっか……」
リザレオは頷く。
「ぼくたち、本当に、似た者同士だね」
そう言ってリザレオが微笑むと、ロカもまた笑った。
「だけど、ウルシュトラツカでぼくを手助けできたかもしれないとか、そんなことを思う必要はないよ。ぼくは元気で、こうやってしっかり生きてる」
「……うん。ありがとう」
ロカは何事にも真剣に取り組み過ぎる。リザレオは彼女の言動を見聞きしていて一抹の不安を覚えていた。それが悪いことだとは言わないが、度を超えると彼女自身が傷付くことになりかねない。
もしかしたら、すでに、もう。
リザレオは唇を噛んだ。それに気付いたロカは、リザレオにしっかりと向き直る。
「あなたは本当に優しいのね。あの子やクゥムーみたいに、相手の気持ちがとても分かる人」
そして、にこりと笑うとリザレオの両手を取り、話し出した。
「落下の直前まで島は崩壊していた……けれど、落下のときには島の中心部はほとんど姿を残したままだったわ。ずっとずっと下にある海というところに、今もそのままで沈んでいるんじゃないかしら。だから、もしかしたら、いつかまた空に浮上する日がくるかもしれない。そう、私は思うの」
微笑むロカの表情を見て、彼女が勇気付けてくれているんだと分かったリザレオの頬に赤みが差す。
「あ、あの……、」
「待って」
「へ?」
「何か聞こえない?」
きょとんとしたリザレオの耳には、弦楽器の音楽やせせらぎの音しか聞こえない。
……いや?
「……ーーームーーーッ!!」
ガゼボを破壊する勢いで垂直降下し、ロカとリザレオの目の前に飛び込んできた声の主は言わずもがなのヨロイクジラ。
「クゥムーっ!?」
尻尾をぶんぶんと振るクゥムーは、明らかに怒っている。思わず手を離したものの、リザレオは指先から消えた温もりが少し名残惜しかった。
「どうしたの、いきなり! というか、クゥムー、あなたは城内に入ってはいけないと言われたでしょっ?」
騎士たちの詰所ならまだしもと思いつつ、あのときもソフィアンネの承諾があったからであって、今はどうだか分からなかった。
それ以前に、夜に城の屋根の上で会っていることをロカは失念している。
「ムルムルルル! ムムー!!」
「な、何よ、クゥムーったら」
「ねぇ、何て言っているの?」
「シューッ!」
「こらっ、威嚇しないのっ」
ロカはクゥムーの頬を両手で挟み込んでもちもちしながら、リザレオに向かって眉を寄せた。
「ロカが何か事件に巻き込まれたって聞いたから急いでやって来たのに、何でこんな所でこいつと仲良くやってるの、って」
「え」
先ほどの手を繋いでいたことを言っているのだろうか。
リザレオは微かに顔に熱を帯びる。
「あ、あのね、クゥムー。ロカはきみのことを、相手の気持ちが分かる優しい子って言ってたんだよ」
「ムルルル……」
そんな言葉では騙されんぞとでも言うようなじと目をソラニルにされるのは初めてかもしれないと、汗を掻きつつもリザレオは心の中で苦笑する。
「……お前ら、何やってんだ……」
第四の声が届く。
ガゼボの入口からゆっくりと階段を登る足音を響かせながら登場した人物は言わずもがなの黒髪赤眼の軽騎士。クゥムーを超える目つきの悪さだ。
よく見ると、ディンセントの向こうでは、弦楽器の演奏者や踊っていたソラリコがロカたちを驚いた顔で見ている。
「あ、あら、ディンセント……あのね、これにはわけがね……、」
ロカはクゥムーの頬に手を当てたまま、獰猛な猛禽類に睨まれて逃げ場のない隅に追い詰められた小さな齧歯類のようにぷるぷると震えている。事情をよく知らないリザレオは、ロカの様子にただ慌てるだけだった。
「ここは城内だって、分かってるよなぁ? ロカ?」
低い声の主は笑っていた。
もちろん、目は笑っていなかった。
何と言うか、皆、それぞれ頑張れ(笑)




