崩壊するウルシュトラツカで2
町を当てもなく探し回ったけれど、あの子は見つからない。
地震がたくさん起こって、どんどん島は崩れていく。上から石がたくさん落ちてくるから町の中は危なくて、島の外側に移動した。
島全体を見渡す。どこか気になるところ……そこがきっと、主の島だから。
目の前が一瞬青く揺らぐ。あっ、島の下!
土が剥き出しになっている島の中央の土台部分に、何か見える。剥がれた土の下から、何か柱のようなものがある。
それに気付くと同時に、ぞわぞわした感覚が背中を走った。
心臓の鼓動が早くなる。体の中心がおかしい。何だか少し気分が悪い……まるで、船酔いしたかのような感じ。
鳥肌が立つ。
急に喉が渇いた。
怖い……のかしら?
何に?
分からない。でも、行かなきゃ。
呼ばれたわけでもないけれど、でも、何だか行かないといけない気がして。
だけど、島の下に近付くにつれて体中のぞくぞくとした痺れが強くなってくる。寒気にも似た、ぴりぴりとした感覚。
……!
今、何か聞こえた。風の吹く音に混じって、何か。
何かを喋っているのではなくて、低く唸るような……声、だと思う。
何だろう、早く行かなきゃ!
走って、島から下向きに伸びているいくつもの柱の所へと近寄る。島の中央を中心にして、円形に柱が並べられているようだった。崩れかけの白いそれに手をかけると、そこから割れてさらさらと砂になって風に飛ばされていった。
柱と柱の間から中の様子を見る。柱の内側には円形に沿った曲線の廊下があった。途中で崩れてしまっているけれど、この廊下は円状に一周しているのかな。廊下のさらに内側には部屋があるみたいで、外側と同じ柱が円形に並び、柱と柱の間を蔦などの植物が絡み合って壁を作っている。
……静か、
と思った瞬間に、何かが崩落する音と唸り声が響いた。
中央の部屋からだわ!
その声は苦しそうで、切なくて。慌ててどこか入れる場所を探す。
少し走ると植物がない所があった。
飛び込んで、ぞっとした。
白い石畳が敷かれたこの部屋の中央に円状の黒い沼……のようなものがあって、そこから大小無数の黒い手が同色のドロドロとしたスライム状の液体を滴らせながら生えていた。沼の中には黒い塊があって、あふれ出るスライムと周囲の黒い手がそれを沼へと押し込んでいるように見える。
その塊の一角が一瞬剥がれ、薄い水色の毛並みが見えた。
あの色。
視界がぶれる。
首筋から背中、足にかけて、電流みたいな悪寒が走った。
あれは、もしかして……っ!
急いで駆け出す。
「危ない!!」
突然の声と共に、横に突き飛ばされる。いつの間にか迫っていた黒い手の群れが、見えない壁に弾かれて折れたり潰れたりしている光景が見えた。
「……キミ、危険だよー」
両手に石畳のひんやりとした感触を感じる。目の前の影から声がした。
白い肌が印象的な男の子がいた。
顎の辺りで切り揃えられた金色の髪は、さらさらと光を反射させながら流れる。
男の子の奥で、黒い塊が沼へと沈んでいくのが見えた。
「待って、あれは!」
「あれは非情なものだから」
私を庇いながら振り返る男の子は両手をクロスして広げ、再度、防衛術式で見えない壁を作った。
男の子の腕を掴んで叫ぶ。
「違うの! 今、あの中に友だちが見えた気がしたの!」
一瞬だったけれど。でも、確かにあの毛色は、あの子だ!
「……そう。でも、残念だけど、もう……」
目を伏せた男の子の長い睫毛が少し震えた。
……嘘でしょ?
あの、小さなあの子が、一緒に遊んでいたあの子は、もう、いないの?
足が震える。
手が震える。
冷たくて、痛い。
……嘘だ。そんなはず、ない……っ!
「っ! キミ!?」
男の子の驚いた顔に、はっと我に返る。思わず、ソラリコの力を使っていた。力を入れた指は石畳に引っ掻き傷を付けて、割れた石に埋もれてた。
「その力は……キミ、カマラドなのか?」
カマラド……?
何のことだか分からないわ。
ふと、指先を見た。砕けた石の粉が付いてる。
「……!」
そうだ!
確か、あの子が言ってた。
あの子が消えてなくならない限り、私との繋がりがなくならない限り、あの子と同じような力が私も使えるって。船を持ち上げたり石畳を割るような力は、普通の人間にもソラリコにもない。あの子と仲良くなった私だけの力。
だから。
こうやって、石畳を割る力がまだあるのなら、あの子はきっと大丈夫!
どこかにいる。例え、この黒い沼に飲み込まれていたとしても、あの子は消えていない。
「ねぇ、キミ、大丈夫?」
「……大丈夫よ」
考え事をしていた私は男の子の声に気付くと立ち上がった。沼に近付こうとして手を引っ張られる。
「ちょっと! ダメだよ、近付いちゃ」
「だって、あの子はまだ消えてないの」
「だから、あれはもうダメなんだってば。それに、あれに引き摺り込まれたとしたら、少なくとも、ここにはもういない」
「……」
ここにはいない?
じゃあ、どこかにはいるのね。
「あ、ちょっと、今度はどこに行くの?」
「友だちを探しに行くの。あの子はどこかにいるから」
男の子は私の手を掴んだまま離さない。
「悪いけど、それは見過ごせないなー。この島はもう落ちる。キミをここに置いていくわけにはいかない」
「私は大丈夫」
「大丈夫じゃない。この島が落ちると、あれが成り代わってこの領域を支配する。いくらキミがカマラドでも、この領域を埋め尽くすほどの大量のあれには負ける」
「……あれって、何?」
男の子は黒い沼を見つめた。塊を飲み込んだ沼は、次に飲み込むものを探しているみたいに黒い手をさ迷わせてる。
私に振り返った男の子は、無表情で言った。
「ヨミ」
ヨミ。
……どこかで、聞いたことがあるような。
「とにかく、行こう。キミの友だちもきっと上手いこと逃げて、ここではないどこかにいる、どこかで生きてる、そうなんだろう?」
男の子は私の手を引いて、部屋の外へと歩き出した。
えと、どうしたらいいのか分からない。引っ張られるままについて行く。
繋がった手と手を見つめた。
この人は、何も感じないのかな。指で石畳を割った私のことを。
さっきの飛行船の操縦士の表情が浮かんだ。
「……ねぇ」
「うん?」
「私のこと、気味悪くないの?」
男の子はぴたりと足を止めた。こっちを向かない。
「そうだ、自己紹介がまだだったねー。ぼくはショルショパン。キミは?」
「え……ロカよ」
「じゃ、ロカ、さっさと行こう」
私の手を強く握り直した男の子……ショルショパンは、躊躇なく歩いていく。
ヨミ、カマラド、他にも、領域を支配するだとか、よく分からないことを色々聞いた。
一体、何が起こってるのかしら。これから、何が起こるのかしら。
分からない。
でも、分からないでは済まされない、そんな気がするの。
「そうそう。ぼくもねー、」
私の考え事の隙間を突いて、ふいにショルショパンが振り返った。
反動で、そのきれいな金色の髪が舞う。
「普通じゃないから」
そう言って笑った。
白い肌におかっぱのような髪型の金髪の少年……彼は恐らく短パンなので、属性的にはショt略。
/// お知らせ ///
更新が滞ってすみません。
体調不良で文字を書くのがなかなかしんどく、更新したい&話を書きたいと気持ちでは思うものの体がついてきません、うわーんチクショー。
少しゆるゆる更新になるかもしれませんが、どうぞよろしければ引き続き読んでいただけると嬉しいです。




