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ソラリコ  作者: 春鳩るい
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姫と副団長

 ソフィアンネは一考の後、ロカとリザレオに告げる。


「悪党たちについて、私の方で詳しく調査しよう。島内で問題を起こすとはいい度胸だ。鳥のソラニルとユルルについても調査するが、こちらについては事情を考慮する」

「ありがとうございます」


 ほっとしたロカは胸に手を当てて微笑んだ。

 ソフィアンネは思い出したようにロカとリザレオに問いかける。


「……そういえば、ロカとリザレオ殿との関係は? 知り合いのようだが」

「私がこの島に着いた日に出会いました。お城まで私の荷物を運んでくれたの」

「ほう」

「ぼくは郵便配達士です。港の貨物用クレーンが倒壊した事故のときに、ロカが助けてくれたんです」

「ああ、あれか。報告は受けているぞ」

「あのときは女の子が急に空に飛び出したから、島の外に落ちるって思った……本当にびっくりしたんだよ、ロカ?」

「だ、だって、クレーンに吊られている荷物が落ちちゃうって思ったんだもの。と言うか、その話を今ここでしなくてもいいじゃない」

「ふふ、ちゃんと報告しないとね」


 困り顔のロカににこにこと笑うリザレオの姿はとても微笑ましく、そのくすぐったい気配を感じたソフィアンネも軽く笑む。


「そうか。……リザレオ殿、これからもロカと仲良くしてやってくれ」

「はいっ」


 リザレオの破顔に、ジョルクシュも微笑んだ。


「よし。以上だ。ロカ、また時間があるときに話をしよう」

「はい」


 ソフィアンネは軽くジョルクシュを見上げると、彼女は了承の合図で頷き、ロカたちを扉へと誘った。


 扉が閉じられ、室内の息遣いが一つになる。

 ソフィアンネは椅子の背に体を預けて沈み込んだ。

 目を閉じ、ふける。


 ロカを拐おうとするとは、一体、何者だろうか。深く調べる必要があるが、何せコハントルタの騎士団には諜報に長けている者が少ないのが実状だ。騎士団の団長はそういう方面を些か甘くみている節があり、あまり力を入れようとしない。これは憂慮すべき点である。


 コハントルタは情報弱者だ。そんな中でも、世界に関する何かが動き出していることは分かる。

 いや。ずっと前から動いていたのだろう。

 ウルシュトラツカ……あの島が落ちてから。

 違うな。

 きっと、落ちるずっと前から。

 ロカがアレスローヴェンで過ごしていたときから。

 もしかすると、もっと昔から。


 動いていた歯車に自分も巻き込まれ始めたということだ。それは、ロカを引き受けると決めてから腹を括っていたこと。

 むしろ、望んでいたのだ。


 この状況を打破する一手と共に。


 現在、騎士団の団長は、力があり経験豊富な団員たちと共に遠征で不在。そもそも、彼は戦いに身を置き、武勲をたてることを重んじる人物だ。こうやって平穏な場所で室内勤務を主とするなど、彼はきっと耐えられないだろう。


 私は別に構わない。日々、書類に追われようと、会議ばかりであろうと、それが必要なものならば。


 だが、今は、何も生み出さない。

 副団長と呼ばれようと決定権はなく、団長不在時でさえ全権限を持てることもなく、現状の執務をこなすだけだ。

 一番近くで騎士団を見つめ、感じ、現場の意見を取り入れ、より素晴らしい騎士団へと改めていこうにも、全権は団長……兄が握っている。私はそこに踏み込めない。

 国王を始めとして皆が、私が姫だからと危険に身を晒すことを防いでくれているのは分かっている。兄は単に妹がしゃしゃり出てくるのが鬱陶しいだけだろうが。


 私は、兄のように戦場へ乗り込みたいとは思わない。

 コハントルタを守りたい。今よりもっと誇れる騎士団にしたい。

 事の先頭に立ち、この手で事を執行したいのだ。

 そこで騎士団の皆が共に進んでくれるのならば、どれだけありがたいことだろうか。


 今のままでは現状の構図は変わらないだろう。

 だから、水面に波紋を生じさせる一石が欲しかった。止まった空気を押し流すような新風が欲しかったのだ。


 ロカの身元引き受けの話があったのは、そんなときだった。

 これは運命の出会いなのか。


 私は心中をありのままグランディネールに告げると、彼女は笑った。


 確かに、ロカの波は大きい。それは周囲を波立たせ、吹き流し、全てを巻き込んでいくだろう。

 だが、その揺らぎで本当に何か変わるのか、ただ揺れに身を任せただけで終わるのか、結局はその者次第だと。


 そう言って、彼女は笑っていた。


 ロカはきっとどこに行っても波の中心になってしまうだろう。だからこそ、彼女を力としか見れないところには預けたくないのだと。ソラリコとして、一人の女の子として扱ってくれるところがいいのだと、静かに言ったグランディネールの寂しげな色を混ぜた微笑みが鮮明に思い出される。


 私はロカの力をあてにしているわけではない。

 ロカの力を使って、何か事を成そうというわけでもない。

 ただ、この状況に甘んじる私の頬を叩き、停滞するこの小さな箱庭に新しい常識と非常識を運んできてくれはしないかと、淡い期待でも抱きたいのだ。


 扉をノックする音で、ソフィアンネは目を開ける。

 入室を促すと、淡い茶色のショートボブの女性が姿を現す。


「グレッサ」

「はい、いかがいたしましょう」

「ロカを拐かそうとした人間が、逃げたソラニルを探していたらしい。そのソラニルは睡眠ガスを放って、住民の何人かが一時的に眠ってしまったそうだ」

「睡眠……つい最近、似たようなことがありましたね」

「そうだ」


 さすがだと人差し指を軽くグレッサに向けたソフィアンネは、唇の端を引き上げる。


「つまり、今回の事件はそれと関係のある連中の仕業の可能性が高い」

「承知いたしました。お調べいたします」


 微かに微笑みを湛えたグレッサは細身の銀縁眼鏡を軽く持ち上げ、その奥の灰色の瞳を煌めかせた。

グレッサは、腹黒美人秘書系

でお送りします。

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