報告せよ
「ふふん。で、ジョルクシュよ、要件とは何だ?」
ソフィアンネの執務室に自信たっぷりの声が響く。手にしていた書類を置いて椅子の背にもたれて足を組み、あからさまに勝ち誇った顔でニヤリと笑うソフィアンネに、内心汗を掻くジョルクシュは敬礼しながら報告した。
「は。ロカ殿とリザレオ殿に話を伺いましたが、単なるソラニルの迷い込みではなく他の島の者たちが複数関係しているようで、副団長にも話をお聞きしていただきたく招請いたしました」
ソフィアンネはジョルクシュに向かってさらに口角をさらに上げた後、部屋を見渡しているロカに話しかけた。
「ロカ、勤務外にご苦労だった」
「はい」
「そして、リザレオ殿はロカを手助けしてくれたそうだな。感謝する」
「は、はい」
「それで、聞いたところによれば、町の一角でソラニルが力を使ったらしいな」
「はい、びっくりしたユルルが睡眠ガスを出してしまって。でも、それも元を辿れば、あの子が人に無理矢理別の島から連れてこられたからです」
「ふむ。詳しく聞こう」
それから、ロカはリザレオと共に事件のあらましを説明した。ソフィアンネは腕を組み、じっと二人を見つめている。
ジョルクシュはソフィアンネの近くに控えて二人を観察しており、ロカはともかくリザレオは一般の住人なのに、一国の姫を目の前にして気が引けた素振りもないのは大したものだと感じていた。
ロカたちの言葉が途切れた後、微かに視線を外すソフィアンネは足を組み直した。
「……つまり、その大きな鳥のソラニルはドムトリーエルムという島の主かそれに準ずるもので、町でパニックになっていたユルルを保護したロカを襲った正体不明の悪党たちを退け、ユルルを連れて帰っていったと」
「はい」
そう。あの鳥のソラニルの風格は、島の主に相当するものだった。島に住むものを守り、そして、力ではなく然るべき措置を然るべき機関を通して行うというのも、島を統轄するものとして妥当な対応といえる。
ソフィアンネはジョルクシュを見る。
「悪党たちについては?」
「すでに探させております」
「うむ」
鋭い眼差しで彼女は一つ頷くと、ロカとリザレオに向き直った。
「悪党たちについては、何か気づいたことはあるか?」
「四人組で、リーダーみたいな人が一人と、ソラリコが一人いたわ」
「旅人のような格好で、所属を示すような紋章は身に付けていなかったと思います」
「ふむ。その島の主とやらからも、そいつらについての情報は聞いていないのだな」
「はい」
単なるゴロツキの集団か、それとも、身分を隠す必要がある者たちか。男性四人組の正体はロカには分からなかったが、鳥のソラニルは相手を然るべき機関に通告すると言っていたので、どこの者だか分かっているということだろうか。
「他には?」
「後は、ソラニルを連れていたわ」
「ロカはそのソラニルによって怪我をしたんだよね」
「何」
ソフィアンネの眉が動く。ロカは困った顔でリザレオを見た。
「そのことは別にいいのに」
「駄目だよ、ちゃんと言わないと」
組んだ足をほどいたソフィアンネは、少し前のめりになりなからロカの体を凝視する。
「そういうことはちゃんと報告しろ。どこだ、怪我は」
「あの大きな鳥のソラニルが治してくれたので、もう大丈夫」
「そうか……だが、報告は怠るな。いいな」
「……はい」
刻んでいた皺を眉間から消し去ると、髪の毛を払ったソフィアンネは背もたれに体を預ける。ロカへと小さく溜め息を吐いた。
「他に気になったことは? 些細なことでも報告しろ」
こちら側から詰めねば言わないだろうと踏んだソフィアンネは、ロカとリザレオをたしなめるように見る。その効果があったのだろうか、ロカは顎に手を当て、話す必要があるのかどうか少し悩む仕草をした後、ぽつりと話し始めた。
「後は……あの人たち、ユルルだけじゃなくて私も連れていこうとしたみたい」
「何」
ソフィアンネの椅子の背もたれは、またしても主人の温もりから離れることになった。
「きっと、どこでユルルと会ったのかを聞きたかったんだわ」
「……」
ソフィアンネは黙り込む。
ロカの推測したような意図だけならばまだましだが、それだけではない場合、些かやっかいなことになる。
ロカは、自分の重要さが分かっていない。自分の力がどれほど周囲に影響を及ぼすのかを考慮に入れていない。
だからこそ、ロカがアレスローヴェンを出なければならなくなったとき、アレスローヴェンの大巫女三柱の一人のグランディネールは、親交の深いソフィアンネにロカを託したのだ。
ジョルクシュの瞳に映るソフィアンネの眉間の溝は深い。ロカについて全てではないものの、ここに来た経緯について話を聞いているジョルクシュだったが、深く彼女の過去は知らなかった。
見た目は普通の少女。ソラリコとしての力が強いという。
そして。
ある事件をきっかけにアレスローヴェンにいられなくなったのでコハントルタで預かった、と。
一つ言えることは、ソフィアンネのロカに対する情は厚い。
だが、この少女が、ソフィアンネに、コハントルタにもたらすものは、幸福か災厄か分からない。
それでも、自分の主の行いと共にあるのが直属する者の心得であるとジョルクシュは信じてこの場に立っている。
ロカの存在は吉と出るか凶と出るか。
盲目的にロカを養護するソフィアンネですが、彼女を慕う人たちにとっては重要なことですね。




