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ソラリコ  作者: 春鳩るい
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ロカ、怒る

 島の端に下へと続く階段がある。南側に逃げることも可能だったが、ロカはその階段を駆け降りた。

 その先はロープが張られており、島の土台部分が少しえぐれてできた空間を利用した場所には木箱やタルが並んでいた。貨物の一時置き場か倉庫のような雰囲気だった。


 人はおらず、壁に囲われたこの場所は行き止まりのようで、ロカとユルルは追い詰められたような形になる。背後から聞こえる複数の足音に耳を傾けながら、ロカはユルルを倉庫の隅にある木箱のところに座らせると微笑んだ。


「少しだけ、ここで待っていてね」


 そして、ゆっくりとその場を離れると、やってきた追跡者たちの前にロカは立つ。

 彼らの数は四人。先ほど対峙した、体格のいいリーダー格の男性が一歩前に出た。


「さぁ、ソラニルを返してもらおうか」

「あの子はあなたたちのものじゃないわ」

「我々のところから逃げ出したものだ」

「無理やり連れていたのでしょう。同意なき連行は協定違反よ」


 ソラニルの乱獲や無断捕獲は、人間とソラニルの間で結ばれた協定で禁止されている。

 ここの騎士団に従事するソラニルたちは、皆、交渉と承諾によって来ているのだ。各々自由に交渉可能だが、ソラニルたちとの交渉専門の機関も存在する。


「証拠はあるのか」

「あの子から聞いたもの」

「それでは証拠にならない。そちらの戯言だ」

「ソラニルは嘘をつかないわ。それだけで私は、あなたたちからあの子を守るには十分よ」


 男性は溜め息を吐いた。たった一人の少女が男性四人と対して一歩も怯まない意気は悪くはないが、同時にあまりに向こう見ずである。

 そして、やはりソラニルと会話ができるようだ。真偽のほどは判断しかねるが、あの言動から、彼女が何かを知っていることは確かだろう。ソラニルを連れ帰るのと同時に、この少女にも詳しく話を聞かねばならない。


 男性は他のメンバーに目配せをする。三人の中の一人がロカへと手を差し出し、光の翼を広げながら鍵をかけるような所作を取った。ロカの足元に魔方陣が浮かび、そこから蔦が生えて彼女の周囲に檻を編んでいく。成功に気を許したのか、ソラリコの男性が小さく頷いた。


 ロカは、口を軽く真横に引く。足を軽く上げると、勢いよく地面を踏みつけた。

 何かが軋むような、割れるような音が響くと、ロカを囲っていた蔦がびくりと強張り、次にはしなしなと枯れて粉々に散っていく。


 まさかほぼ組み上がった捕縛術式を壊されるとは思いもよらなかったのだろう、目を見開いて呆然としているソラリコの男性へと、先の彼の動作を真似するようにロカは手を差し出す。

 金の髪が揺れ、その手首から光の翼がたゆたい始めた。少女からあふれ、濃厚に光の粒子が散る空間を見て、ソラリコの男性は愕然としたようだ。

 そんな人物の気持ちなど捨て置き、ロカはただ手首を捻った。ソラリコの男性の頭上に魔方陣が煌めく。

 ロカを捕縛しようとした檻よりも太く頑丈な蔦が流れるように鋭く伸び、ソラリコの男性を内包した鳥籠を形成する。あっという間の出来事で、周囲の仲間たちはただ成り行きを見つめるしかなかった。


「ソラリコか……」


 近年、ソラリコの数は減少の一途を辿っている。ひっ迫しているとまではいかないが、このままだと衰退してしまう職種となるだろう。しかもそんなソラリコがソラニルと十分に意思疏通ができる能力を持っているとなれば、なかなかの希少な人材とみていい。ソラリコとしての力も強そうである。

 鳥籠の中でもがいている者を横目で見るリーダーは、それをすぐに助けるわけでもなく、ただ呟いた。


 リーダーを除いた他の二人がロカへと向かう。武器を使うと相手を傷付けてしまう恐れがあるためか素手で捕まえようと試みているが、ロカの動作はとても素早く、足して空中に足を着いたりトリッキーな動きをするので、彼らの思うようにはいかないようだ。


 捕獲してくる腕の隙間を抜け、ロカはくるりと回転する。右手の指先を少し丸め、その手を右から左へ、薄く開けた目の下側を通過させると、手のひらを下に向けて男性たちを横一文字に切るようになぞった。刹那、大きく開いた彼女の青い眼が、そのさらに奥が、見つめる先を飲み込むような深さの色を加えた視線で相手の目を射抜く。

 相手が怯んだ隙に空を蹴って彼らの上を飛び越え、その背に手が触れないように撫でながら着地する。光の粒子が手の動きに寄り添い、一瞬の滝を作った。


 彼らは慌てて振り返ると、再度ロカへとアタックする。しかし、背中に何か気配を感じ、驚きながら振り向く。誰もいない。すぐにロカへと向き直るが、数歩動いたところでまた肩を揺らしながら振り返る。背中を撫でられるような感覚。青く深く鋭い目に、今も後ろからじっと見つめられているような。


 眼前に少女はいる。

 ああ。視線は勘違いだ。背中の感触は風だろう。


 そう思うのに、何故かそう言い切れない。先ほどから、まるで背後を取られたかのような感覚が生じる。心の根底に何か化け物が入り込んだとでもいうのか。

 肝を冷やす彼らは気味が悪いと顔をひくつかせた。


 それは古式ヤタの効果で、相手への威嚇そして畏怖を植えつける舞いだった。彼らの感じた通り、常に背後を取られているような錯覚を生じさせ、得体の知れないものの気配がちらつき、戦う気力を萎えさせるのだ。


 捕獲の手が弱まる仲間を見て、リーダー格の男性が動いた。

ロカぷんぷんですが、町の中なので配慮いたします。

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