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ソラリコ  作者: 春鳩るい
55/105

原因

 どれくらい時間が過ぎただろうか。

 屋上から突き出した色彩豊かな屋根の縁に腰かけていたロカとユルルの元にやってきたのは、ソラリコと騎士団ではなかった。

 ロカと面識のない男性二人組で、旅人の格好をしているが、その体格の良さや気配からどこか只者ではないと知れる。こんな何もない屋上に人が、ましてや住民でもない旅の者が、明確な目的がなければ来ることなどまずないだろう。


 ユルルは先ほどまでの鳥籠にはもう入っていなかった。それは、ユルルと話し合った末のロカの結論の証だった。


 ロカはユルルと向き合って話をしていたようで、男性は彼女の背後に立って見下ろす形で声をかける。


「そこの君。そのソラニルは我々が探していたものだ。捕まえてくれたことに感謝する。こちらに引き渡してくれ」


 男性たちを見たユルルは、とても怯えていた。

 ロカは振り返らない。


「……君、聞こえてい、」

「あなたたちが、」


 ロカは微かに首を動かす。

 風が、急にその髪を揺れ動かした。


「あなたたちが、連れ出したのね」


 それは、肌上を剃刀が撫でるような。


 男性二人組は得体の知れない何かに気圧され、思わず後退りしながら腰に差す剣に手をやる。静かだが、まるで耳の傍で囁かれているようによく届く声だった。


 ロカは屋根の薄い縁にゆらりと立ち上がる。ほんの数秒、そのまま空かどこかを眺めているようだった。

 そして、ゆっくりと振り返る。彼女の細められた瞳は青く冷たい。


「……何者だ」


 剣の柄に手を伸ばしたまま、体格の良い方の男性が低音で問う。ロカは何も言わず、来訪者をじっと見つめていた。勢いを増した突風が彼女の髪を乱雑に巻き上げ、この物言わぬ者の心中を現しているようだった。


 ロカはふいに肩に柔らかい感触を受ける。ユルルがロカへと身を寄せ、不安そうに彼女を見つめていた。はっとしたロカの張り詰めた雰囲気が崩れ、取り巻く強い風も瞬く間に去っていった。


 男性たちは次の一手を戸惑っていた。普段の彼らならば即座に何かしらの対応を行っているものだが、先ほどの威圧とも取れる気配を受け、下手に動くと危険だという警鐘が鳴り止まない。

 外見は細く頼りなくその辺りにいる少女と変わりない姿なのに、内側に何かとんでもないものが居着いているのではないかと勘繰らせるに十分な初手を食らっていた。


 目の前の少女はソラニルと言葉を交わしているようだ。

 おかしい。

 ソラニルと意思疏通できる者がほんの僅かだがいることは知っている。例えば、そう、あの島の特殊なところには、そういう者がいると聞いた。

 ソラニルに愛され、空に愛され、風に愛される。圧倒的な力を持ち、人間とソラニルの世界の境界線上に立つ化け物じみた者が。

 この少女がそれだという確証はないが、もし仮にそうだとしても、こんなところで出会うのはおかしい。


 ソラニルと話をしていた少女がふいに二人組を見た。先の身震いするような瞳ではなかったが、男性たちは身構える。彼らに対して何の興味もないと宣言するような、中身のない視線だった。


 屋根の縁に立つロカの足元は危うい。狙うならばそこかと何故か戦闘のシュミレーションさえ起こす男性の目は、彼女の足が揺れるのを見た。男性は一層、警戒を強化する。次に彼の目に入ってきた光景は、その少女がまるで急に眠りについたかのように目を閉じながら屋根の向こう側へと倒れていく様だった。スローモーションのような錯覚、気付けばそこにはもう誰もいなかった。


 数秒間、呆然としていた男性だったが、目を見開くと急いで屋根の下を覗き込む。石畳の上に凄惨な光景はない。ソラニルさえ消え、そこには何もなかった。


「しまった」


 それは、相手を混乱させ逃走する常套手段。二人組はまんまと策にはまっていた。


「追うぞ!」


 あのソラニルは必ず連れ帰らなければならない。

 人力を使い、時間をかけ、やっと捕獲したあの稀少種は、躾ければ愛玩用でも戦闘用でも幅広く需要のあるものになるだろうし、手土産といった外交の手段にも使えるだろう。帰途時の不手際さえなければ……このまま、やすやすと逃すわけにはいかない。


「対象を発見。現在、正体不明の少女と共に町を逃走中。場所は、島の南東部。捕獲に向かえ。ソラニルと、可能ならば少女もだ」


 男性は腰に着けていた小型の丸い籠を取り出すと、それに向かって言葉を放つ。

そうして、細い網目の籠の頂点にある蓋を開けると、その穴から蜂のような姿の小さなソラニルが数匹飛び立っていった。二つの巣を往き来する特性を活かし、小型の録音機を装着した伝令用のソラニルだ。他の者が持つ巣をめがけて飛んでいくのだろう。


「少女も確保、ですか」


 連れの男性が問いかける。


「そうだ。少女がソラニルを追いかけて町中を走り回っていたのを我々は見つけたわけだが、そうなった経緯を確認せねばな」


 そう。

 だが、それ以上に。


 あの少女の気配は、見逃すにはあまりにも異端すぎる。

ちなみに、ユルルは水信玄餅的な触感ですぷるぷる。

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