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ソラリコ  作者: 春鳩るい
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保護作戦1

 気合いを入れるように、アルタは勢いよく手を叩いた。


「よし! じゃあ、ロカ、これからどうするっ?」

「ソラニルを保護しに行くわ」

「え、ソラニルをほほ保護?」


 驚く二人へとロカは頷いた。


「ええ。この睡眠作用の現象は、ソラニルの力が原因なの。ソラニルの種類はまだ特定できていないのだけれど……とにかく、この近くにソラニルがいることは確か」

「なるほど」

「ねぇ、今までにこの町でこんな出来事、起こったことがあるのかしら?」

「んー、なかったと思うけど」

「そっか。じゃあ、このソラニルはここに住んでいるわけではなさそうね。保護しておうちに帰さなきゃ」

「捕まえて、元いた場所に帰したら、もう被害は出ないってことか」

「そ、そんなに簡単にソラニルをつつ捕まえることができるの?」

「ラズ、何言ってるのー。できるかどうかじゃなくて、やってみるのっ」

「ほっ」


 アルタはラズメリアの頬をつついて、中にいるであろう心配という気持ちを潰そうとする。ロカは思わず微笑んだが、すぐに表情を引き締めて再度索敵術式を行う。先ほどと同じような路地裏の四つ角の所に、赤いぼんやりとした反応が映っていた。


「こっちよ」


 ロカたちは走り出した。


 店を出て、すぐ横の細い路地に入る。急にラズメリアが速度を緩めた。


「そっ! そう言えば、おおおお支払いは……ほっ!」


 テンパる様子のラズメリアの背中を、後ろを走るアルタが押しながら速度を上げるように促す。


「大丈夫! ちゃんとウェイターに言って、机の上に置いてきてるからさっ」

「そっ、そそそそうなのねっ」


 いつの間にそんなことをしたのだろうか。アルタはこういうところが抜かりがないというか、気が利くというか、とにかく素晴らしい。

 ラズメリアは自分の性格と比較して、いつも羨ましく思うのだった。


「はいっ、そんなことより、ロカに遅れないように走った走った!」

「はっ、はわわわわっ」


 ラズメリアが前を向くと、ロカとの距離はもうすでに数メートル開いていた。それでも、彼女が全力を出しているようには全く見えないし、むしろ、後ろの二人を気にして合わせている風にも感じる。


 細い路地に入って二つ目の四つ角を左に曲がる前に、ロカは急に速度を落とした。後方からやってくる二人に向け、彼女は唇に人差し指を当てて合図する。


「……いるの?」

「うん。ほら、あの大きな植木鉢の後ろ」


 曲がり角から少し身を乗り出し、次の四つ角の所に置いてある植木鉢を見る。何かが、もぞもぞと動いていた。


「あ、何かかわいいかも」


 ブルンとしたゼリーを連想させる肌は半透明の淡い青緑色で、足はなく丸みを帯びたボディから続く尻尾はおばけのようだ。頭にはヘルメット型の亀の甲羅のような固い質感のものを被っている。その両サイドからはふわふわとした羽が生えており、そのサイズは体より大きなため、若干地面に引きずるような格好で植木鉢の裏へ隠れている。


「……ユルル、ね」

「お、さすがラズ」

「確かに、ユルルだわ。でも、あの子は睡眠作用の力なんて持ってなかったはず」


 ロカは首を傾げるが、次の瞬間、目を見張った。ユルルが被っている甲羅の頂点辺りから何かが生えていたのだ。

 それは。


「……ハルデンシアの花」


 呟いたロカは思わず天を仰いだ。

 濃いピンク色の大きな花弁が何枚か開いたその中心に蕾があるその花は、外的要因でその蕾が開いて睡眠効果のあるガスを放つ特性を持っていた。

 ただ、普通、ハルデンシアは地面に生えているものだ。こうやってソラニルの頭上で咲くことなどありえない。

 若干困惑気味のロカは、ユルルが動く度に蕾の重みでビョンビョンと揺れ跳ねるそれをじっと見つめる。

 ハルデンシアが生えている所を見ると、少し甲羅にヒビが入っているようだった。どうやら、何らかの出来事でユルルの甲羅にヒビが入り、そこから偶然にハルデンシアが生えたものと推測される。非常にレアなことだ。


「うーん、困ったわ」

「どういうこと?」

「ユルルの頭に咲いている花があるでしょ? あそこから睡眠作用のあるガスが出るの。過度な刺激を与えると、また睡眠ガスが発生してしまうわ」

「あらら、そうなのね」


 睡眠事件がこのソラニル……もとい、このハルデンシアによってもたらされたものだと分かったことはよいが、さて、どうやって保護するべきか。


「とにかく、あまり刺激しないようにユルルに近付いて、捕縛術式で捕まえるわ」

「……捕縛術式もできるんだね、ロカ」


 ユルルの様子を窺うロカに、アルタはこそこそ話を続ける。


「ロカはソラニルと話ができるんだよね? ほら、クゥムーとかさ。あのソラニルとも、話し合いでさくっと解決できないのかな」

「確かに、私は話せるけど……でも、信用とは別物だもの。野性のソラニルならなおのこと、話を聞く前に逃げてしまうかもしれないし、言葉が通じても信用してもらうには説得が必要よ。今回は町中だし、このままだとまた被害が出てしまうから、ユルルには悪いけど一旦捕獲させてもらうわ」

「そうなんだ。ちょっと意外」

「え?」

「いや、ロカってソラニル大好きっ子って思ってるからさ、何だかんだでソラニルに甘いやり方をするのかなって」

「もちろん、大好きよ。でも、それとこれとは話が違うの。だって、今回はすでに被害が出ているし、再発の可能性も高い。ユルルにとっても良くないわ。だから、多少乱暴だけど、被害が増える前に片を付けるしかない」

「おー、なんかかっこいい」


 きっと、相手が人間でも同じことをするのだろう。何というか、ロカはそういう種別で対応を変えるようなことをしない気配がする。

 良い意味でも悪い意味でも平等だ。

 ふいに脳に浮かんだ言葉を、アルタは飲み込んだ。

保護作戦、開始です。

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