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ソラリコ  作者: 春鳩るい
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頼り頼られ

 アルタは、ラズメリアの頭を撫でながらロカに向き合う。


「落ち着いた?」

「え、あ……うん」

「何だか、かなり興奮気味に動いてたけど……、」


 そう言いながら、周囲の倒れている人間を見渡した。


「まずは、」


 アルタの気配ががらりと変わる。その手に光の翼が生えた。無心のような表情でクロスした手を頬に添えると、祈りながら両手を天に向けて差し出す。翼からあふれ出した光の粒子はとても強い輝きを放ちながら周囲の倒れている人々に寄り添い、優しく包み込んだ。


「すごい……」

「そ、そうなの。アルタちゃんは、ちち治癒術式・セルまでできるから」

「イエーイっ」


 セルとは、治癒術式の中で最高位のものである。

 髪の毛を払ったアルタは一息吐くと、両手を腰に当てて胸を張った。すぐに眠っていた人々が目を覚まし、周囲が軽くざわつき始める。気が付いたら机に伏してコーヒーをこぼしていたという現実を、すぐには納得できないだろう。


「次に、騎士団を呼ぼう」


 アルタはそのまま席に戻ると、鞄の中から手のひらサイズの金属製の筒のようなものを取り出した。筒の底からは紐が出ている。自分の頬の横に筒を添えて可愛い格好を決めながら、アルタはロカに説明する。


「ぼくは発光術式ができないから、これが必要なんだ」

「照明弾?」

「そう。何かあった時に騎士団へと通知する道具。で、この紐をー、」


 筒を高く上げた腕で片耳を塞ぎながら、筒から伸びる紐に手をかける。


「思いっ切り、引く!」


 パンっと乾いた音と共に筒の先端から光の玉が飛び出した。パチパチと点滅する青色の光の中から、黄色や赤色の小さな光が帯を引きながら真上に飛翔する。付近の建物の高さを越してまだ少し上がった所で光の玉は再度破裂音を鳴らして弾け、輝きながら消えた。

 その光を床に座ったまま呆然と見ているウェイターに、アルタは話しかける。


「騎士団を呼んだので、お客さんの体調の確認をしながら待っていてください」

「え、あ、えと、はぁ……」


 前後不覚なのは仕方がない。アルタは周囲を見渡す。治癒術式を行ったので、とりあえず人に関することは騎士団に任せよう。


「……ねぇ、」


 冷静に現状の対処をこなしているアルタへと、ロカが声をかけた。


「……私に、理由とか聞かないの? 何で、こんな状況になるのが分かったんだって」


 ロカとアルタは互いを見やった。ほんの僅か、時が止まったような時間だった。


「ああ。んー、何て言うか……そう、ロカから話してくれるかなって」

「……」

「……だだだ、だって、」


 ロカの腕を握ってずっと黙っていたラズメリアが口を開いた。


「コハントルタに来た時から、ロカちゃんはなな何か雰囲気とかが違うなって感じてた。そ、それが何かは分からないけど、と、友だちとして仲良くしてくれてうう嬉しいから、わ、分からなくてもいいって思ってたの。で、でも、い、今、こういう状況になって、聞かなきゃって、お、お、教えて欲しいって思ったの」

「……そうだね」


 しどろもどろになりながらも一生懸命に言葉を伝えるラズメリアに、アルタは優しく微笑む。それから、ロカに向き直った。アルタの顔は真剣だった。


「今まで、ロカがどんなことをして過ごしてきたとか、それは、ロカが話をする気になったらでいいんだ。ただ、こういう事態が起きたときに、ぼくたちもロカと一緒に対処したいんだよ」


 アルタはロカのふいをついて、彼女の額を指で軽くつついた。


「ロカ、今、自分だけで何とかしようとしてたでしょ? ぼくたちが傍にいるんだから、頼ってよ」

「……っ」


 額を押さえるロカの顔は赤い。切なそうな、信じられないと首を振りそうな、泣きそうな、どこか怒ったような、複雑な表情だった。


「まぁ、きっとロカだけでぱぱーっと対処できちゃいそうな気もするけどさ」

「で、でもっ、こういう大変なときにこそ、とっ、友だちって協力したくなるものだと思うの」

「友情パワーってやつ? はは、くさーっ」


 アルタはからからと笑う。ロカの腕にまだくっついているラズメリアも、きりっとした表情でうんうんと頷いている。

 ロカは思わず俯いた。


 嬉しい。

 特に何の私利もなく、ここまで言ってくれるのは嬉しい。

 これが普通なのか、それとも、あの島での自分の立ち位置が複雑だったからなのかは分からない。


 ずっと、ずっと、自分だけでやってきた。

 近くに人はたくさんいたけれど、それでも、独りでやってきた。

 自分は、他とは違う。

 そう。

 手を伸ばすことはしても、伸ばされることは必要がないと。

 ソラリコたちの団結を見てはその共闘の志や絆が素敵だとは思ったけれど、それが自分にも等しく与えられるものだとは考えていなかった。

 ……いや。


 本当は、本当なら、あるはずだった。

 いるはずだった、傍に。


 ロカは顔を上げた。


「……ありがとう。嬉しい、そう言ってくれて」

「うん、……うん」


 照れのある中にどこか寂しげな色が滲むロカの顔を見て、一瞬、アルタは眉を寄せたが、すぐに目を閉じて頷きながら微笑んだ。

友情パワーはクサくて素敵。

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