大事なことだから2
もちふわトーストを頬張っていたロカは幸せそうだった。あっという間に皿の上の幸福は腹の中に収まり、彼女は少し残念に思いながら食後のアップルジュースを飲みながら余韻に浸っていた。
そんな至福の時間の中、ふいにアルタが口を開いたことがきっかけだった。
「ねー、ロカってヤタの練習はどんな感じ?」
「え?」
ロカの心臓がドキリと跳ねる。もちふわトーストの思い出に浸っていたロカは、急に矛先が向いた話にカウンターを食らった気分になる。
「ロカが副管理長と練習しているのは知ってるよー。でも、もうすぐ練習期間も終わるよね。だから、そろそろ三人て踊るパダガトのヤタの振り付けを考えるために、今から次のターンについて手を打つ準備をしようと思って」
「セシルさんたちに、パ、パダガトでロカちゃんとおお踊れるようにおおお願いするのね」
アップルジュースに刺さったストローが微かに揺れる。楽しげな二人を尻目に、ロカは少し俯いた。
言わなければならない。
ロカは思った。
相手の反応が怖い。
でも。
こんなに自分のことを気にかけてくれているのだから、ちゃんと伝えなければいけない。
これは、大事なことだから。
「ロカちゃん?」
「……私、」
眉を寄せたロカはこぼれるように呟いた。
「私、二人と一緒に踊れるか分からないの」
「だーいじょぶ、だいじょぶ! 古式ヤタだって、あんなに踊れるんだもん。ロカのソラリコはぼくの審美眼のお墨付きだよっ」
「ううん、違うの」
彼女の唇が、きゅっと締まった。
「私、どうしてもできないヤタの所作があるから……」
「何の所作? あ、探し物を見つけるやつとか、望遠鏡のやつとか?」
「さ、索敵術式と遠視術式ね」
「ううん、それはできるの」
「え、それ、できるんだ……じゃあ、お天気お姉さんのやつとか、フラッシュライトのやつとか?」
「てて天候察知術式と光源術式ね」
「ううん、それもできるの」
「ひぇ、それもできるんだ……じゃあ、何ができないの?」
「……」
「……ロカちゃん?」
「……あのね、」
ロカは唾を飲み込んだ。
「治癒術式と防衛術式」
アルタとラズメリアは顔を見合わせた。ソラリコは、治癒術式と防衛術式ができて当たり前なのは周知のことだろう。
「……ふむ、そっか」
顎に手を当てて考え事をするアルタを、ラズメリアは両手を組んで見つめている。
目の前のコーヒーを一口含んだアルタはおもむろに立ち上がると、下を向くロカに近付いた。突然、傍に寄る気配に顔を上げた不安げな彼女の両肩をアルタはぽんと叩いた。
「気になるだろうけど、きっとどうにかなるよ」
「……え?」
いつものような少し戯けた風の言葉だったが、アルタの表情は至極真面目だ。
「だって、治癒術式と防衛術式だけできないんだよね。つまり、それ以外の所作はできるってこと。治癒と防衛はぼくだってラズだって他のソラリコだってできるからさ、それ以外のレアな所作ができるロカって必要だと思うんだけどな」
「……」
「んー、まぁ、一介のソラリコのぼくが言っても軽く聞こえるだけかもしれないけどさ、何かのときはぼくたちも一緒に言うから、頑張ってみようよ」
「そうね。き、きっと大丈夫よ」
微笑むラズメリアと腕組みをして頷くアルタの白い歯が見える。
「だって、自分から希望を捨てる必要なんてないんだからっ」
ロカはぽかんとしたまま声を失う。
考えていたよりもずっと、悩んでたよりもずっと、アルタとラズメリアの反応は明るかった。それこそ、自分は何に怯えていたのだろうと拍子抜けするほどに。
ロカの白いスカートは、彼女の握り拳で皺ができた。
「……ありがとう」
どんな表情をしたらいいのか。
ロカはどこか泣きそうにぎこちなく眉を寄せて笑う。
その笑みは、瞬時にして消え去った。
諦めかけたときに差し出される手は照れ臭くて素敵。
/// お知らせ ///
昨日は体調良くなくて投稿お休みしましたm(+_+)m
作者∶春鳩は急にグッバイ健康します……うう、すみません、ご了承くださいませ。




