大事なことだから1
ハラヘリ中は、読むの注意かもです。
今日は絶好のお出かけ日和で、朝から太陽は力を込めて輝き、空は抜けるように一面青かった。
「ここだよー」
桃色の髪をふわりと揺らしながら振り返るアルタが指差したのは、島の東端に並ぶ店の一つ。白い壁と要所に木の材質を使った外観で、花や緑がたくさん植えられており、おしゃれでどこか可愛い装いをしている。
「ここね、朝早くから食べられるもちふわトーストで有名なんだー。粉砂糖のかかったバターたっぷりの生地はふわっふわで、お好みで生クリームとか蜂蜜をたっぷりかけちゃったりしてさー」
ロカはもちふわトーストとはどういうものか、よく知らなかった。ただ、キラキラと瞳を輝かせるアルタの流れるような説明を聞いて、お腹が鳴りそうになるのを必死に堪える。
「折角のロカの初お出かけだから、テラスの眺めのよい所で食べたくってさ、頑張って予約したんだよー。褒めて褒めてっ」
「そこまで気にかけてくれたの? 本当に嬉しい。ありがとう!」
「さ、さすが、アルタちゃん」
「んふふー。じゃあ、早速入ろっ」
自分のことを気にかけて行動してくれていたアルタに、ロカは嬉しくて自然と笑みがこぼれた。
こうやって自由に外出するのも、誰かと一緒に遊ぶのも、ロカにとって滅多とない体験だと言っても過言ではない。彼女は、それほどにまで特殊な環境にいた。同じ年頃の女の子が一般的に行ったことがあるであろう休日の過ごし方を、ロカはほとんど経験したことがなかった。
不満がなかったというと嘘になるが、それでも当時のロカとしてはその経験がない故の欲の薄さというか、深い事象とひたすら対していたからか、または大巫女の優しさが慰めになっていたのか、その状況をただ受け入れて過ごしていたのだった。
三人が通されたのは、二階のテラスの角のテーブル。長方形の木のテーブルの中央には、小さな丸いグラスに飾られた黄色の花が風で小さく揺れていた。同じ木の素材の椅子には白いふかふかのクッションが置かれている。
ロカとラズメリアはシンプルなもちふわトースト、アルタはベリー系のフルーツがたっぷりトッピングされたもちふわトーストを頼んだ。
他にもすでに客が来ており、朝食を楽しんでいる。アルタが言うには、休日はそれこそもうかなり混むらしい。ぼくたちは休みが分散しているからその点ではラッキーと、桃色の毛先を触りながらニヤリと笑った。
そうやって他愛もないことを色々話しているうちに、もちふわトーストがやってきた。一般的な食パンのサイズを二分の一ほどの大きさにしたものが三枚、皿の上で絶妙な角度で置かれていた。見た目からもふわふわが伝わるもちっとした厚みで、表面が良い感じに焦げているのも素敵だ。
ロカは隣のラズメリアの動作を見て、同じようにもちふわトーストに付いてきた蜂蜜をかける。濃いめの夕焼け色をした蜂蜜がトーストの上を流れ落ち、傍にある生クリームの山裾に池を作った。
「いただきまーす!」
三人は早速一口ぱくり。
「んー、おいしーっ」
アルタは頬張りながら、ロカの様子を窺う。
口元を押さえて黙っていたロカだったが、すぐにアルタへと向き直ったその瞳はキラキラと星が飛び、アルタとラズメリアを交互に見ながらうんうんと高速で頷き始めた。ごくりと飲み込んだロカは、感動でぷるぷると震えている。
「すごくおいしい! すっごくおいしいの!」
「大事なことだから二度言ったね」
「うふふ。よ、よかったー」
ロカはもう一口ぱくり。卵や牛乳をたっぷり含んだトーストの柔らかな甘さと鼻に抜ける小麦の香り、追撃する蜂蜜の甘さ、トドメの生クリーム。
ロカには雷が落ちたほどの衝撃だったようだ。
「もちふわトーストってこんなにおいしいのねっ。私、初めて食べたの」
「え、そうなの?」
「うんっ。私、こういう物ってほとんど食べたことなくて。それに、この生クリームって、これだけでおいしいのね」
「ええっ、マジかー!」
「あ、甘い物、ほとんどたた食べたことがないの?」
「うん……あ、アップルパイなら、食べたことがあるわ」
「アップルパイかー。まぁ、それもおいしいけどね。そかー、生クリームを知らなかったかー。ふふ、ロカもついに禁断の果実を食べてしまったってわけか」
「な、何それ、アルタちゃん」
「生クリームは中毒性が高い食べ物だからね。味を知ってしまった者は、二度と逃れることができなくなる」
「えっ、中毒、本当っ?」
「ふふ、ロカちゃん、だ、大丈夫よ。アルタちゃんがお大袈裟に言ってるだけだから」
「えー、だって、本当のことだよー。あ、ロカ、折角だからさ、こっちのベリー味も食べてみたら」
そうやって笑い合いながら過ごすテラスからの景色は真っ青で清々しいが、花より団子とお喋りに夢中の三人組には、現段階ではあまり目の保養になっていないようだ。
ええ、いわゆる卵と牛乳と砂糖に浸して焼くアレです。
名称は割と適当に付けました、あわわ。




