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ソラリコ  作者: 春鳩るい
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扉の向こう

 床を通り抜ける形だったので、てっきり、扉の向こうでは天井から顔を出すものだと思っていたロカだったが、どうやらどこかの壁に通路が通じていたらしく、考えていたものとは違った方向へ重力がかかり一瞬くらりと目眩がした。スカートが捲れなくてよかったと安心しながらも、どうせならもう少し大きな扉はなかったのかしらという微かな疑問と共に、這うように扉から出た。

 振り向いた壁には扉のイラストが描かれていたが、消しゴムで斜めに消すように薄くなってすぐに見えなくなった。


 床に着いた手のひらを払いながら、ロカは立ち上がる。花が咲き、緑があふれる広場のような所の隅にぽつんと彼女の姿があった。そこには間隔を空けた何か所かにガゼボが立っており、鳥籠のような装いに花と蔦をまとった外観が美しい。

 夜も更けており、当たり前だがその憩いの場で休憩する者は一人もいなかった。


 月に照らされた影を草花の中に揺らしながら歩くロカは、城の中庭に出たのだと気付く。確か、城の図書室から見下ろした庭がここだった。

 池は静かに水面を揺らしている。虫の声も潜まり始め、暗闇が深まっていく。

 城のあちらこちらには明かりが灯って眠らない場所もあるのだが、この中庭は別空間のように密かに静かに閉ざされているようだった。


 これは、いよいよ本格的に部屋に戻らなければ。

 ロカの脳裏にそわそわしているラズメリアの顔が浮かんだ瞬間、背後から微かな金属音が響いた。


「……!」


 息を飲み、地面に尻餅を着いているのはディンセントだった。

 自分の身に何が起こったのかまだ脳が処理できていないようで、呆然とした表情のまま、目の前に立っているロカを見上げていた。


「あ……、」


 ロカは目を見開く。流れ踊るような動作でディンセントの小銃を叩き落とし、足を払ったところで彼だと気付いたロカはぎくりと肩を震わせた。

 見られたくないものを見られてしまった幼子のように、その瞳の光は揺らいでいる。


「……」

「ごっ、こめんなさい! 急に気配を感じたから、つい……」


 ロカは慌てて手を差し出すが、ディンセントはそれをスルーして立ち上がる。尻を払い、小銃を腰の後ろに戻す彼は、頭を掻きながら溜め息を吐いた。


「お前……夜に何でこんな所にいるんだよ」

「えっ、あ、えっと……、」


 歯切れの悪いロカに、ディンセントの目が鋭さを増す。腕を組むジト目の軽騎士の有無を言わせない表情に、ロカは叱られた子犬のように項垂れた。


「……秘密の部屋を見つけたの。そこから出たら、ここに繋がっていて……」

「……は?」


 いつものことながら全く予想していなかった話になり、ディンセントは固まる。

 ただ、眉を寄せた彼の表情は相当苦く見えたのだろう。ロカは下を向いた。


「……」

「……信じてくれる?」

「……」


 唇を噛んだロカを見て、ディンセントは髪を掻き上げながら再び溜め息を吐いた。


「分かったよ」

「本当っ?」

「つーか、何だよ、その、秘密の部屋って」

「本がたくさんある部屋だったよ、また読みたいなぁ」

「どこにあるんだ?」

「うーん、分からないわ」

「分からない?」

「だって、行きは魔方陣で入ったし、帰りは紙の扉でここに出てきたもの」

「……」


 ディンセントは、唇を横に伸ばして苦い顔のまま次の言葉が出なかった。ロカは嘘を吐くような人間ではないと感じているのでとりあえず話を聞いていたが、それにしても当たり前のようにわけの分からないことを体験している奴だと、まじまじとロカを見ながら思う。

 信じていないわけではないが、突拍子過ぎるのだ。

 もし仮に嘘を吐くとしたら、もうちょっとマシなものにするだろう。


「嘘じゃないわ」

「だから、分かったって言ってるだろ」

「いたっ?」


 少しイラっとしたディンセントは、ロカの額を指先でピンと弾く。


「あー、もう。とりあえず、お前は部屋に帰れ。この辺りに不審者……、」

「え?」

「こっちの話だ、気にするな。お前はさっさと部屋に帰っておとなしく寝ろ」

「う、うん。じゃあ」


 ロカは軽く手を振って走っていく。とにかく、彼女にはおとなしくしておいて欲しい。万が一、不審者に出くわしでもしたらと考えると、たまったものではない。


「って、あ、馬鹿野郎、そっちの扉は施錠してて入れねぇって」


 こんな時間に大声を出して呼び止めるわけにもいかない。施錠については知らないのだろうとは思うが本当に手間のかかる奴だと舌打ちし、ディンセントはロカの後を追いかける。


 彼女の背中を見て、ふいに先ほどの光景が過った。

 こちらがロカだと気付いて気を許していたとはいえ、いとも容易く転がされてしまうとは。彼女に護身術の心得があるとは思っていなかったが、それを差し引いても、だ。

 ……騎士が、ソラリコに。

 相方の兵士が別の班に連絡を取りに行っていて、この場にいなかったのは幸いか。

 平静を装っていたが、思い出しては頬に熱が巡るのを禁じ得ないディンセントは再度舌打ちした。

割とディンセントは心の広い奴かもしれませんが、三割強は多分面倒臭くなっただけだと思います。

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