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ソラリコ  作者: 春鳩るい
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アンノウン

 暑くも寒くもない夜。夜空では星がざわめき、まるで一面が光の粒子で輝きがあふれているかのようだった。


 ディンセントは、もう一人の兵士と共に城の巡回をしていた。太陽が沈んでいる今はハイエフは動かないので、こうやって徒歩の警備となる。


 彼らは城壁に沿って歩いていた。

 明るい。月と星の光で、足元もよく見える。


 あれから、ロカについて何か面倒事に巻き込まれることもなく、割と穏やかな日々を過ごしている。

 結局、島の一部を破壊したダウンバーストの件も、島に突っ込もうとした豪華客船の件も、あれからは鑑識部隊預りとなり、ディンセントたち実働部隊の方の動きは止まったままだ。レイブリックの話によると、大型旅客船の方は、乗船者たちから事情を聞きつつ船内を調査していた段階でどこかの国の調査機関とやらが現れ、そこが引き継いだらしい。手続きは踏んでいるが強引な引き継ぎの要請だったようで、レイブリックの表情がげんなりしていたことを覚えている。


 とにかく、ロカが来たあの日が非常識過ぎたのだ。ヨロイクジラの王などという夢物語のような事象は鳴りを潜め、本当に存在した生物だったのだろうかとディンセントは今でも思うほどだった。


 こうやって過ぎたことを繰り返し思い出さなければならないのも、ソフィアンネが事ある毎にロカの話をディンセントに振ってくるからだ。


 初日に彼女の面倒を見たのが引き金なのだろうか。別に、ディンセントがロカの話題についての聞き役でなくてもいいだろうに、ソフィアンネは彼を選んで話すのだ。その代わりにソフィアンネと話す機会が増えたことは、まぁ悪くないと密かに思っているディンセントだった。


 城壁の死角になっている所や階段の裏など、気になる場所を確認していく。コハントルタは今まで抗争などなく平穏な国だが、警備は怠ってはいけないとディンセントの胸に刻まれている。


 コハントルタからは遠いが、争いが日常茶飯事の国もあるという。騎士団の団長以下精鋭部隊はそこで争いを収める手助けをしているとのことだ。

 そんな国に住むのはごめんだが、ディンセントの心の片隅に一片、騎士の身としては一度は何かのために命を懸けてみたいという生温い考えもあった。

 平和は何よりも大切で、同じことの繰り返しの日々をつまらないと思ってしまうのはいけないと分かっているが、心のどこかが燻っているような滞留感があるのも完全に否定はできなかった。


 くだらないことを考えているなと、ディンセントは頭を掻く。警備に集中しようと思い直し、気分転換のストレッチとして何気なく伸びをしたときだった。


 城の屋根の上で、何かが動いている。


 ぞわっと背筋が痺れた。

 最初はソラニルかと思ったが、星空をバックに象ったシルエットがソラニルとはどうも違う。

 それと目が合う。

 人間、のようだった。


 ディンセントはロカの顔が過る。屋根の上に、しかも夜に人間がいるなど考えられなかったが、彼女ならやりかねないと思い直す。眉間に皺を寄せ、屋根の上の影を睨み付けた。


 一瞬、眉が緩んだ。

 ……違う。ロカじゃない。


 月と星に煌めく銀の髪を長く長く垂らし、それは屋根の上に立っていた。片目を髪の毛で隠した表情は詳しくは窺い知れない。

 ディンセントは目を離すことができず、また動くこともままならなかった。


 その人間と思われる生き物の傍にはソラニルがいた。ヨロイクジラだった。その体躯は、あのクゥムーとかいうヨロイクジラより一回りか二回りほど大きいように見える。

 その組み合わせは嫌が応にもロカを思い出させるが、引き摺るほどの長い銀髪は彼女と一致しない。


 侵入者。

 脳内に響いたその言葉を皮切りにディンセントは辺りを見回すが、もう一人の兵士は少し離れた所を確認しに行っていてここにはいない。


 もう一度、天を仰ぎ見る。屋根の上の人影は、まさに夜空の中に足を踏み出そうとしているところだった。足元が青白く発光し、足首には翼のような光の帯が同色で揺らめいている。

 そして、夜空の中に音もなく降り立った。それは、空を渡るソラリコと同じ力。だが、ソラリコは夜空を渡ることなどできない。


 じゃあ、あれは何だ。


 ディンセントは目を開いたまま動けない。そんな彼のことなどお構いなしに、銀の影は微かに屈むと足に力を入れる。

 夜空を蹴る動作をした瞬間、そこにはもう何もいなかった。

 ディンセントは慌てて夜空を見渡す。微かに残る青白い光の粒子を辿ると、島から離れた北の方角に、恐らく先ほどの者だろうと思われる青白い光が星とは違う瞬きで存在しているのが見えたが、すぐにまた見失ってしまった。後を追いかけるように、ヨロイクジラが飛んでいく姿も確認できる。


 あれは人なのか。いや、人なら、ソラリコなら、夜空を渡れるはずがない。


 ディンセントは胸の鼓動を押さえ、立ち尽くすしかなかった。不審者なので早急に対応しなければならない。


 ただ、ディンセントは思う。

 あれは、あまり深入りしてはいけないものではないか。

白髪、銀髪、色素薄い系はどうしても心躍りますよねフフ。

でも、純粋に黒髪や小麦肌も好きです。

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