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ソラリコ  作者: 春鳩るい
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陽のあたる場所

 オハラが衝撃を受けたロカとのヤタの練習の日から、ほぼ毎日のように彼女たちの基礎練習は続いた。


 そんなある日の午後、城の図書室にオハラの姿があった。


 図書室は小さいながらもレトロな書架に様々なジャンルの本を並べ、紙とインクの匂い、そして、静かな時間の流れに満ちていた。中庭側のテラスの椅子に座り、風になびく髪を耳にかけながら本を読みふけるオハラの姿は趣がありとても絵になっているが、当の本人の頭の中はそんな悠長な状態ではない。

 彼女の考え事は、もちろん、ロカについてだった。


 ロカは、マニアックな部類に入る天候察知術式や光源術式なども総じて容易くできたのだが、どうしても治癒術式が無理だった。それと、治癒術式と肩を並べる防衛術式。これも、彼女は無理だった。

 治癒術式にも防衛術式にも効力のランクがあるのだが、どれをやってみても掠りもしない、全くの無反応なのだ。


 オハラは頭を抱えた。どうしてなのか、理由が分からなかった。

 まるで、ロカのソラリコとしての力の中から、治癒術式と防衛術式の二つだけがすっぽり抜け落ちてしまっているような。他の術式の出来映えが素晴らしい分、そのアンバランスさが突出して異様に見えてしまう。

 治癒術式と防衛術式はソラリコにとって二大巨頭といっても過言ではないものであるので、その二つができないというのは、常識として、ソラリコになりたてのロカにはかなりの痛手といえる。


 オハラは、書架から取り出した幾つかの本の最後の巻を閉じる。書物に何かロカのような事例がありはしないかと探してみたが、思ったような知識は得られなかった。城の図書室は小規模なので、蔵書の多い書庫か町の国立図書館の方がいいかもしれない。

 机に肘をついて両手を組み、その上に顎を乗せて目を閉じる。テラスを通り抜ける風は爽やかだが、彼女の気持ちはそうはいかなかった。


 オハラ自身は、ソラリコになるというロカの気持ちを汲んであげたいのだが、他の者がどう思うのだろうか。現状のロカでは、ソラリコとして完全ではないと言われてしまう可能性が高い。


「どうしたの?」


 上から降ってきた声に思考を停止したオハラは目を開ける。ふっと視線を上げると、机に片手をついてオハラを見つめるセシルの瞳にぶつかった。少しだけ驚いたオハラだったが、その表情はすぐに微笑みに変わり、ついで軽く首を振る。


「ええ、ちょっと調べもの」

「そうなんだ。言ってくれたら、一緒に探すのに」

「ふふ、ありがとう。でも、個人的な勉強だから気にしないで」


 セシルはオハラの向かい側に座ると、机に積まれている本をめくる。


「ソラリコの歴史だね。こっちは、ソラリコの特性……ソラリコについて調べているんだ?」

「ええ。知らないことも、まだたくさんあるから」

「うん。確かに、そうだね」


 そのまま、セシルは少しだけ本に目を通す。ミルクティ色の髪は柔らかく風に乗り、午後の陽に煌めく。

 図書室に偶然居合わせた者たちは、真っ白なセイラー服に身を包んだ二人組を遠巻きに見ては目の保養にしている。


「はー、ソラリコって綺麗よねー」

「あの二人組は特別よ」

「ほら、あの人だそうよ。うちで唯一の男性のソラリコって」

「ソラリコって女性だけじゃないの?」

「関係ないみたいよ。今は圧倒的に男性は少ないらしいけど」

「だからこそ、何だか余計に王子様みたいー」

「分かるー」


 そうやって薄紅色のさえずりが跳ねる。足を組み、すらっとした姿勢で読書をするセシルと、肘をついた両手の上に顔を乗せてその様子を微笑みながら眺めているオハラのコンビが座るそのテラスの一角は、他の者が容易く足を踏み入れることが躊躇われるような空間を作り上げていた。


 ふいにセシルは本から目を離す。


「ねぇ、オハラ。ロカの様子はどう?」

「ええ、毎日、しっかりと練習しているわ」

「そう。ソフィアンネ様の話を聞く限り、ロカの力量ならきっと心配することはないと思うけれど、ソラリコは見た目の華やかさ以上に厳しいものだからね。彼女には頑張ってもらいたいな」


 セシルの柔らかい微笑みの中に、凛とした気配を感じた。そうして、自分の中で何かを確認するように小さく頷きながら、中庭の緑に目をやり物思いに耽る。

 二人の間を吹き抜ける風が、読みかけの本のページをパラパラとめくった。


 セシルは、ソラリコというものについて真っ直ぐの思いを持った人物だ。ソラリコをまとめ、ソラリコとしての義務を果たし、ソラリコを守る。現ソラリコの管理長として古くからの歴史を引き継いでいく立場を生きるセシルは、オハラ以上に責任を抱えているだろう。

 それに加えて生来の真面目な性格ゆえか、ソラリコはこうあるべきと四角四面に考えているところがあるセシルに、どうやってロカのことを説明すれば上手くいくのか。治癒術式や防衛術式ができない彼女を認めてくれるのだろうか。


 セシルの横顔を見つめながら、憂いを潜めるオハラは眩しそうに目を細めた。

歌劇団とかセーラー服の美少女な戦士とかそういう雰囲気ですキラキラ。

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