治癒術式
ソラリコたちはバルコニーに集まっていた。まずは皆でストレッチをし、基礎のヤタを復習する。これがソラリコの一日の始まりのメニューだった。
ソラリコたちはセイラー服でヤタを踊る。動きにくそうな服装に見えるが、その装いでも美しい振る舞いができるように心がけて日々を過ごしなさいというスタンスのようだ。
皆が基礎のヤタを練習する中、ロカはオハラに呼ばれて基礎のヤタの型を個別に教えてもらっていた。
基礎は何となく分かっていた。ただ、所作はロカの自己流の解釈なので、間違えがないか、再度確認をしながらの練習となった。
「うん。ロカちゃんは飲み込みが早いのね。それに体も柔らかいし、素晴らしいわ」
「ありがとうございます」
褒められるとこんなに嬉しいものなのだということも、ここに来てから知ったもののひとつだった。次も頑張ろうと気持ちが高まり、とても楽しくなる。
「じゃあ、次は治癒術式から」
オハラの声に、ぴくりとロカが震える。途端に彼女の周りの空気の流れが固まる。
「ロカちゃん?」
「……あっ、はい」
「いい? 治癒術式は、私たちソラリコの大切な力のひとつ。自分ではない誰かのために祈りを込めて所作をすると、その相手の傷を癒すことができるの」
知っている。ロカは自己流で治癒術式を行ったことがあるし、また、数多の治癒術式を見てきた。ソラリコたちが一斉に踊り、放つ治癒は儚くも強く美しいものだった。そこがあんな場所でなければ、拍手を贈りたいとどれほど思っただろうか。
「治癒術式に関する注意点は二つ。一つ目は、自分自身に対しては効果がないこと。ソラニルでも人間でも、自分以外の生物にならば治癒をかけることができるわ。二つ目は、治癒といっても失ったものは元に戻せないということ。治癒の効果は、対象者が持っている自己治癒能力を高め補う範囲に限られるわ。例えば、切り傷は修復できるけれど、流れた血は還せないというもの」
オハラは話しながら、流れた血を受け止めるように手のひらを前に出した。
ロカは頷く。それは了承ではなく、肯定だった。
そのとおりだ、と。
ソラリコたちの姿を見て、誰に言われるともなしに知っていたこと。ロカは肌で感じていたのだ。そして、オハラからの言葉に、経験した情報をそっと追加する。
……ただ、例外はあるけれど。
「治癒術式や防衛術式、色々な所作があるけれど、それらを上手く組み合わせることによって、より効果を高め、効率を上げ、ソラリコが複数で舞う場合はより広範囲に効果が出せるようになる……今は、踊りとしての需要が大半だけれど、それがヤタの原点なのよ。始まりは踊りとして考えられたものではないけれど、それでもヤタの見目が麗しいのは、きっとヤタを考えたソラニルがロマンチストだったのね」
そう告げたオハラが微笑む。緊張していたロカは、ふいのロマンチストという言葉に思わず口元を緩める。
ソラニルはロマンチスト。
うん、きっと、そうだろう。
青い耳飾りに触れる。
そう、あのときもそうだった。
白い花びらが目の前を掠める。
それは、灰暗く、月が明るく、青みがかった夜のこと。
「ふふ。ひとまず言葉での説明はこれくらいにしておいて。さぁ、治癒術式・アルの所作を練習しましょう」
自身が言ったロマンチストという言葉にうっとりしているように見えるオハラは、その雰囲気のまま、ぽんと手を叩いた。
ヤタを舞うやら踊るやら所作するやら色々言葉が出てますが、早い話がダンシングですね。




