他愛のないお喋り
「お、おはよう」
声が聞こえて、瞼の向こうが明るいことに気付く。昨日は眠るのが少し遅かったためまだはっきりと頭が覚醒していないロカだったが、視線を横にずらすと隣のベッドに座って髪の毛を編み直しているラズメリアを見つけた。
「……おはよう」
自分でもぼんやりした声だなと思いながら、ロカは起き上がる。起き上がった姿勢のまま放心しているロカを見たラズメリアは、黒髪が絡まる指を器用に動かしながら微笑んだ。
「き、昨日は、ちょっと遅かったものね。あ、新しい場所に来て、つつ疲れているだろうし」
「……うん」
「ね、眠いと思うけど、朝、朝ご飯を食べに行かなくちゃ」
「……うん」
ロカは重たい瞼を擦り、力一杯体を伸ばす。ぺしぺしと頬を叩いた。
さぁ、今日も頑張ろう。
「あ、ロカちゃん」
ベッドから降りてクローゼットから制服を出していると、髪のセットが完了したラズメリアが近付いてくる。
「ほら、ほら。ね、寝癖」
彼女は手にブラシとスプレーを握っていた。ラズメリアは、スプレーでロカの寝癖を濡らしながらブラシで髪の毛を流していく。長い黒髪が印象的なラズメリアは、その持ち主の性質上、髪の毛に関することには敏感なのだろう。
「ロカちゃんの髪の毛は、キ、キラキラでさらさらで良いなぁ」
「ラズメリアの髪もふわふわでとても長くて素敵じゃない」
「あ、ありがとう。でもね、ま、前はこんな感じじゃなかったの」
「そうなの?」
「うん。か、髪は固くてストレートで、びびびっしりセンター分けのガチガチの三つ編み。め、眼鏡も、ぎ、銀縁の細身の物で」
今のラズメリアは、ふわふわウェーブをほどけそうなほど緩めの三つ編みにし、丸くて大きめな黒っぽい縁の眼鏡をしている。
「そ、それから、アルタちゃんに出会って……し、初対面でいきなり言われたの。『そのヘアスタイルと眼鏡が似合うのはきみじゃない!』って。とと、突然過ぎて、びっくり。ふふ、おかしいでしょ」
腰に手を当てて意見を主張しているアルタを想像したロカは、ラズメリアに合わせて笑う。確かに、アルタは思ったことは誰にであろうと物申す勢いがあるように見える。
「ふふ、アルタなら言いそう」
「うふふ。でね、に、似合うヘアスタイルと眼鏡に変えようって言われて、お、お店に色々連れていかれて……気付いたら、こ、こうなったの」
ラズメリアは眼鏡を上げた。彼女にはサイズが少し大きい気がしないでもないが、きっと、アルタのこだわりなのだろう。
「ま、前の私も嫌いじゃないけど、アルタちゃんが変えてくれたいい今の私は、とても、とても好きなの」
にこにこと笑うラズメリアに、頷くロカもつられて微笑む。
「アルタは、髪型とかファッションとかが好きなのね」
「そうなの! ふ、服の見立てもばっちりだし、ヘアアレンジもとととても上手。ロカちゃんも今度、ま、町にお買い物に行こうね」
「うん、楽しみにしてる」
「ふふ。さ、寝癖、な、直ったよ」
「ありがとう」
お礼を告げながら、ロカは後頭部を撫でる。友だちに髪の毛を梳かしてもらったことは初めてだった。いや、そもそも、他愛のないお喋りをしながらのんびりした時間を過ごすこと自体、ロカにとっては新しい体験だった。
何だかくすぐったくて、思わず微笑んでしまう。
「セイラー服に着替えたら、か、顔を洗って、食堂に行こ。アルタちゃんも、もももうちょっとしたら来るから」
「うん」
頷きながらロカはクローゼットを開ける。いつも着ている服と共に、真新しいセイラー服がそこにいた。
ロカはその滑らかな生地を掴みながら、嬉しそうにふわりと微笑んだ。
ストレスなぅなロカにひとときの癒しを。




