最初の夜
穏やかな雲の流れと輪郭を淡く発光させる月を浮かべた夜。
あれからロカたち三人は、パダガトで舞うヤタについて話し合い、管理長に許可を貰うための策を練り……といってもほとんどは他愛のないお喋りだったようだが、後は、軽く振り付けを練習した。
ロカにとって、とても楽しい時間だった。もう一人の自分の声は次第に気にならなくなった。無意識に気にかけないようにしたのかもしれない。
誰かと何かをすることはこんなにわくわくするものなのかと、思い出す度にロカは口元が緩むのを感じた。
晩ご飯は城の食堂で食べた。城で働く者たちですでに賑わっており、ロカは見知った顔がいないかと辺りを見回したが、ディンセントたちは見当たらなかった。
その後、共同浴場で温まって、今、ロカはソラリコの寮にいる。
寮は城の屋根裏にあり、木の香りがするこじんまりとした落ち着いた一室に彼女は通された。廊下の端の部屋で、ドアを開けると左手と正面の壁に窓、右側には小さなクローゼットとベッドとサイドデスクが二組置かれ、手前のベッドにはラズメリアが座っている。使い込まれた様子だが、金色の取っ手が付いた薄いエメラルドグリーンのクローゼットが可愛い。
「ラズメリアと同じ部屋なのね、よろしくね」
「うん、よ、よろしく」
そこでロカは首を傾げた。アルタとは晩ご飯後に廊下で別れたが、この部屋はロカが来るまではラズメリア以外いなかったようだ。何故、アルタとラズメリアは同じ部屋ではないのだろう。そこまで考えて、はたと気付いた。ああ、そうか、アルタは家から通っているのかもしれないと。見た限り、この寮に住んでいる者の数はソラリコ全体の三分の一にも満たないようだ。他の者は自分の家に帰っているのだろう。
自己解決したロカはトランクを広げ、詰め込まれていた僅かな衣服をクローゼットへ仕舞う。
次に小さな一輪挿しを取り出し、飲み水の入った水差しから少し水を貰うとサイドデスクの上に置く。トランクで揺れている白い花を取ると、一輪挿しに飾った。揺れる大玉の蕾に向かって微笑む。
窓の外を見上げた。
クゥムーは今、どこで何をしているのだろう。多分、この辺りには土地勘がないはずだ。
ソラニルは逞しいとはいえ、見知らぬ土地でどうやって過ごしているのか、ロカは気になっていた。
「ク、クゥムーちゃんのことが気になるのね?」
ラズメリアが眼鏡をかけ直しながら言う。
「うん」
一度声の主へと振り返り、また窓の外を見つめる。
「あの子、どこにいるのかしら。ちゃんと眠れる場所を見つけたのかな」
「そ、そうよね。は、初めての場所だものね」
この辺りは気候も空の状態も穏やかだからきっと大丈夫だろうけど……後で外に見に行ってみようかと、ロカはひっそり思う。
夜に出かけたら怒られるのかな?
「ロカちゃんは、クゥムーちゃんと一緒にいたじじ時間が長いのね?」
後ろを振り向くと、優しく微笑むラズメリアがいた。
「うん。クゥムーとは小さい頃に出会ったの。時には一緒にいられないこともあるけど、よく遊んでいたわ。でも、今回はアレスローヴェンから離れて知らない所へ行くものだったから、クゥムーはお留守番しておいた方がよいと思って別れてきたんだけど、ついてきちゃってたの」
「そ、そっか、クゥムーちゃんは、き、きっと、離れたくなかったんだね」
この島でクゥムーに出会ったのには本当に驚いた。でも、同時に何だか少しほっとしたのだった。ただ、この島でのソラニルの扱いについてだけが心配だったが、周囲の今までのソラニルへの対応を見るに、多分、そこまで神経質にならなくていいのだろう。
ほとんどのソラニルは人間にとって共存できる相手であり、歴史を辿れば恩人(恩ソラニル?)であるのに、最近はソラニルを怖がったりする人間もいるようだ。それだけならばまだましというのもおかしいが、どうにかすると敵視するような対峙の仕方になってしまっている人間もいるようで、ロカにとってとても心を痛めるものだった。
生まれた国によって、生きる環境によって、影響を受けた人によって、見る角度も見える範囲も千差万別。




