踊りの後
ロカはデッキブラシを真上でくるくると回転させる。ひゅっと息を吸うと、デッキブラシを自分の正面に勢いよく突き立てた。柄が床石に接触してコーンと小気味良い音が鳴り、その音の波は聞く者の耳の奥まで浸透していく。
終演の合図とばかりに、風はロカを中心に舞い上がる。
デッキブラシを突き立て前を見据えるロカの姿は、地に旗を立てその場を制するような、何者にも屈しない堂々としたものに見えた。
風が止み、一瞬、無音の空間が広がる。その場を満たす余韻がアルタとラズメリアを痺れされ、動けなくしていた。
ここにクゥムーがいればさぞかしテンションが上がったことだろうと、アルタは動き始めた脳で考える。痺れが取れた手で拍手をしながら、アルタはロカへと向かって歩き出した。
「いやー、格好い、」
「素敵っ! ほほほ本当に素晴らしいですー!!」
アルタの言葉に乗り上げるラズメリアは、喜色満面でロカに向かって高速で拍手する。
「うん、うんっ、やややはり、こ、古式ヤタなのね! あの型は……そう、一式! いい、祈る対象者の気持ちを高揚させ、士気を高め、と、共に進むための始まりの舞い! うん、す、すごいのねっ、ぼんやり見ていた私だって、こここんな、」
「ちょっと落ち着け」
アルタは落ち着きのないラズメリアの頬を軽く突く。
「ほっ!? あ、あうあ、ご、ごめんねっ」
「ふふっ、気に入ってくれたみたいで何よりよ」
「もっ、もちろん! 古式ヤタは本で読んだことはああああったけれど、じ、実際に初めて見たのっ」
「ぼくも初めて見た。きりっとした格好いいヤタだね」
「そうなの! い、今のヤタと違って、古式ヤタは荒れた空を統制するのをたた助けるためのものが多いの。むむ、昔々、島が浮上した時代はまだ混乱が多くて、ひ、人の中からソラニルと共に歩む者を……ほっ!?」
「分かった分かった! もー、ラズはソラリコのことになると知識が口を突っ走らせちゃうんだから」
再度、ラズメリアの頬を突っついたアルタは白い歯を見せて笑った。
「それにしても、うん、本当にすごいよ、ロカは。それだけ踊れるんだったら、ねぇ、パダガトでぼくたちと一緒に踊ろうよ」
「えっ、で、でも、私、来たばかりだし、それに、パダガトで踊るヤタを知らないし……」
「大丈夫、大丈夫。ロカならすぐに覚えるよ。後は管理長に許可を貰えばオッケーっ」
「うん、そ、それ、賛成!」
「……っ」
素直に評価してくれた二人からのキラキラした提案に、喉の奥が締まり、思わず言葉を飲み込む。
パダガトの祝祭でヤタを踊る……なんと甘くて苦い響きなんだろう。その甘さにくらりと酔って、そのまま流されてしまいそうだ。
とても素敵な誘いに心が揺さぶられるが、後追いしてくる苦さに頬を叩かれて目覚めた胸の奥底にいるもう一人の自分が冷たく達観した瞳でこちらを見つめながら言う。
声は聞こえないが、何を言っているのかは手に取るように分かる。
……分かっている。
「二人のパートのところは、三人に変更できるよね?」
「もももちろんですっ。お、踊る人が増えると華やかさもふ、増えて素敵!」
嬉しい。
嬉しい。
無理だよ。
楽しい。
踊りたい。
駄目だよ。
だって、ソラリコだよ。
いいえ、あなたは違う。
盛り上がる目の前の二人を見ながら、ひっそりとロカは心を波立たせていた。
諸手を挙げてやりたいことに挑める気持ちや環境が、どれほど大切なものか。




