新旧
ロカは手足を伸ばして軽くストレッチを始める。腰を捻りながら、ふいに二人に問いかけた。
「何か、棒ってあるかしら?」
「ボウ?」
アルタとラズメリアは揃って顔を見合わせる。
「ボウって……長い棒のこと?」
「うん、何でもいいの」
「うーん……あっ」
手のひらをぽんと叩いて思い付いたジェスチャーを披露したアルタは、バルコニーから廊下へと走っていった。ラズメリアはきょろきょろしながらずれた眼鏡を上げて、アルタが姿を消した方を見つめている。少しして帰ってきたアルタが手に持っていたものは、デッキブラシだった。
「これ。バルコニーの掃除道具だけど、これでもいい?」
「うん、ありがとう」
ロカはデッキブラシのグリップの感触を確かめるように、何度か強く握った。そして一つ頷くと、アルタとラズメリアの傍から離れるように歩いていく。
アルタは不思議だった。自分が知っているヤタでは、道具を使って踊ることなど一切ないのだ。隣を見ると、そういうヤタを知っているのか知らないのか、とにかくキラキラした表情でラズメリアがロカを見つめていて、アルタはその興味津々な姿に思わず小さく微笑む。
「ねぇ、それ、ヤタで使うんだよね?」
「そうだよ」
キリッと引き締まった表情に変わったロカは、右手で器用にデッキブラシを回転させる。ブラシのある側に少し重心が傾くので、感覚を補正する。
ロカは息を吸い込み、回転を止めた。
一瞬、風が止んだ。
ロカは正面でデッキブラシを肩の高さと水平にゆっくり持ち上げ、ぴたりと静止する。体を右に捻りながらデッキブラシを少し後方へ引く。捻りを止めると、勢いよく体を左に回転させた。引き連れたデッキブラシはまるで世界を薙ぎ払うかのように一閃を描いた。そのまま回転を続ける。軽やかなステップを織り交ぜ、身を低く、高く。上へ下へとデッキブラシの軌跡が流れた。
右側でブラシを回転させ、横向きの数字の八を描きながら前進する。空間を撫でるように、指差しした左手を前から斜め後ろへ水平に流す。指先を見つめる目は凛々しい。
前に向き直り、デッキブラシを左手に持つと正面で真っ直ぐ立てて構える。目を閉じ、柄に額を近付ける。デッキブラシが剣のように見えた。目を開くと共に、デッキブラシを回転させながら先ほど指差しした跡をなぞるように左回りする。前へ戻ると、次は左側で八の字を描く同様の動作をした。
「すごいなー」
アルタは感心する。今まで見たことのないこのヤタの動きは格好よかった。まるで何かを先導するような、扇動するような、力強い踊りだった。
それに、ロカが持つヤタの技術力だ。これだけ踊れるのならば、全く心配などいらないだろう。今から練習すれば、パダガトの例大祭にも出られるのではないだろうか。
ふいに隣を見ると、ラズメリアは両の指がほどけないのではないかと思うくらいひっしと握り合い、微かにぷるぷると震えながら前のめりで見つめている。頬は紅潮し、静かにだがテンションが上がっている様子だ。確かに、踊るロカを見ていると気持ちが高揚するのはよく分かる。
釘付けになっている彼女の姿が何だか素敵に面白くて、アルタはくっくと小さく笑い声をこぼした。
いやー、踊りの型って難しいですね。




