クラッシック
ロカとアルタとラズメリアは、バルコニーへと戻ってくる。そこに人影はなく、傾いた太陽の光と柔らかい風だけが舞い合っていた。
「お、今は誰も練習してないじゃん」
「そ、そうね。皆、つつついさっきまでヤタの練習してたし」
「よーし、じゃあ、早速やろーっ」
ロカの前にアルタとラズメリアが立つ。腰に手を当て、首をこてんと傾げる衝撃でアルタの桃色の髪が流れ落ちる。
「んー、ロカってヤタの基本は知ってるの?」
ロカは一瞬返答に戸惑ったが、少し眉を下げながら頷く。
「うん、何となく知ってる。習ったわけじゃないけど、好きだったから自分で勉強したの」
「す、すごいのね、ロカちゃん」
「へー、じゃあ、踊れるんだ?」
「……古いヤタなら」
「古い?」
謎を解く探偵のように格好をつけたアルタは、親指と人差し指を立てて顎の下へ構える。
「うん、最近ではほとんど踊られていないんじゃないかしら」
多分、とロカは思う。そのヤタを、アレスローヴェンのソラリコたちが踊っているところを見たことがなかったからだ。
「そっ、そそそそれって、古式ヤタですかっ」
「おおっ、ラズ、びっくりした」
瞳をキラキラ輝かせながらロカに近付いていくラズメリアの組まれた両手は期待で震えている。
「えと、とりあえず古いってことしか分からないんだけど……」
「お、お、お、そ、そうなのですかっ」
「ラズ、テンパり過ぎ。ロカが困るでしょー」
「はっ、ご、ごごごめんねっ」
「ううん、大丈夫よ」
アルタは、子どもをあやすようにラズメリアの頭を撫でる。
「この子、歴女っていうの? ソラリコとかヤタの歴史や由縁とか、そういうのが大好物みたいで、テンション上がっちゃうんだよねー」
「そ、そそ、そうなの」
何故か焦っているラズメリアに、ロカは嬉しそうに笑った。
「そうなのね。ふふ、私も大好きよ」
「お、おおっ、そ、それは良かったー」
「おっと、待て待て、ぼくだって好きだからねっ」
二人の話題に乗り遅れんと、わしわしとラズメリアの頭を撫でながらアルタも参戦する。バルコニーで踊る風に乗って、三人の仲のよいキラキラした空気が舞い上がっていく。
「その、ふ、古いヤタ、私、きき気になります!」
「ぼくも気になる! ねぇ、ロカ、ちょっと踊ってよ」
「えっ、でも……」
「いーじゃん、いーじゃんっ。下手だろうと間違おうと、踊る気持ちが大事だよっ」
「う、うーん……」
ロカは少し困った。まさか、以前踊っていたあのヤタをこの島でも見せるとは思っていなかったからだ。
あのヤタは何と表現すればよいのか……とりあえず特殊なのだ。踊りも些か特徴的ではあるが、特筆すべきはその効果だった。最初はそんな効果のことなど露も知らず、ただ本に示されていたヤタが綺麗で楽しそうだから踊っていただけだった。
踊ることはとても楽しかった。
ただ、それが、思いも寄らず必要とされたあの場所。
あの場所は悪くはなかったけれど、複雑な気持ちになる。
違うことを考え始めてしまったと、ロカはぐっと目をつぶって思考を真っ白に消す。
ヤタのこの効果だが、ソラリコの力を使わずに踊ればほとんど発揮されないだろうし、踊るヤタの種類に注意すれば、そんなに神経質にならなくてもいいだろう。
これは禁じられた踊りではないのだから。
そうまとめたロカは、口角を少しだけ上げた。
「分かった、いいよ」
ラズメリアの喋り方はおどおど詰まります、好き。




