伸ばした手
「アルタ、ラズメリア、前に出てきてもらえるかな」
「はい」
「は、はい」
セシルがソラリコたちに呼びかけると、その中から二人がロカの近くへと歩み出る。声のした順を考えると、腰の長さの桃色のストレートの髪の子がアルタ、体の前側に垂らした膝丈まであるふわふわした黒い三つ編みの子がラズメリアという名のようだ。二人共、ロカと同じくらいの年齢だろう。
「二人にはこれからロカと一緒に行動してもらいたいんだ。彼女をフォローしてあげてほしい」
「分かりました」
「は、はいっ」
アルタとラズメリアがロカへと向き直る。
「ロカ、これからよろしくねっ」
「わ、私がお手伝いできることがあったら、あの、え、遠慮なく言ってね」
爽やかな笑顔で手を振るアルタと、両手を組んで少しおどおどした様子で微笑むラズメリアに、ロカは鼓動を鳴らしながら笑う。
「うん、ありがとう」
ロカの傍で二人のソラリコを見ていたクゥムーが、急に声を出す。
「ムムーっ」
「わっ! びっくりした」
アルタは肩をびくつかせるが、次の瞬間には楽しげな表情に変わり、クゥムーを撫でようと手を差し出す。もちろん、そんな簡単に知らない人の手に我が身を許すことはないが、ロカの後ろへ身を翻して隠れたクゥムーは尾を振りながら、じっとこの二人を眺めているようだった。アルタはスカートを握って身をよじる。
「何だよー、撫でさせてよー」
「ふふっ、アルタちゃんったら」
「ねー、ロカ。この子の名前は何ていうの?」
「クゥムーっていうの。ね、クゥムー?」
「ムっ」
クゥムーはロカの体に尾を巻き付ける。もちろん、甲殻の部分が当たらないように緩く緩く。
「えー、何それ、かわいいっ」
「こらこら、お喋りはその辺にして、ヤタの練習を再開するよ」
「あっ、はい!」
「ロカは……そうだね、もう少しでヤタの集団練習は終わるから、しばらくそこで見学しているといい」
「はい」
ロカは目の前で踊るソラリコたちの姿を眺める。
少しだけ真似をして、指先を空に差し出す。
クゥムーは退屈そうな素振りなど出さず、尾を振りながらじっとヤタを見ている。
ソラリコの踊りは長い月日の流れの末に、複数の意味を持つようになった。
遥か昔、人間はソラニルに空へと連れてきてもらったが、その空は現在よりもっと不安定で、その空をうまく治めるためにソラニルと組んだ人間がソラニルからヤタを教わり、その人間たちを後にソラリコと呼ぶようになった。その恩義のお返しに足して、歴史が進むと共にヤタの意味に国家繁栄や五穀豊穣の祈願が追加されながら、ソラニルへの奉納の舞として国家行事となっていく。
そういう経緯から、ソラリコの踊りはソラニルへ捧げるものでもあるので、ソラニルにとって癒しであり、極上のエンターテイメントであり、ときには血が沸き、心の琴線に触れる感動作なのだ。
ロカは眩しくて思わず目を細める。
彼女の胸に一抹の不安が過る。
自分は、本当にソラリコになれるのか。ソラニルへの安寧と祝福の祈りを込めたヤタを舞うことができるのだろうか。
ソラニルも青い空も風も優しい。
ロカはそれらが大好きだ。
だからこそ。
今更、自分が踊ることを許されるのだろうか。
差し出した指先は空を切った。
アルタは、元気いっぱいおしゃれプリティ系
ラズメリアは、おどおどあわあわふわふわ眼鏡系
で、お送りします。




