感覚
ロカは本当に不思議な人間だ。
他の国ではどうなのか知らないが、少なくともコハントルタの常識からいえば、かなりの変わり者だと断言できる。
フェクサーのように仕事でソラニルとタッグを組む者とはまた違う、ソラニルという種族の違うものたちを容易く許容する心と言語能力を持つ人間に、ディンセントは出会ったことがなかった。
ああ、そうだ。
不思議といえば。
「副団長、あの……先ほど、巨大なヨロイクジラをご覧になりましたか?」
「いや?」
天をも埋め尽くすようなあの巨体だ、コハントルタからも見えないはずがないと思ったのだが。一定の領域でだけ見える、何か結界のようなものがあるのだろうか。
「……早速、不思議な目に遭ったな?」
「あ、その……はい、ヨロイクジラの王とやらに遭遇しました」
「何?」
ディンセントは頭を掻く。
大きな瞳をさらに見開いたソフィアンネの心情は手に取るように分かる。彼自身にとっても、まだ夢を見たのではないかと考えているほどだ。
「ぷっ、はははっ。なんだ、予想以上に面白い体験をしているじゃないか」
「おもし、」
「ロカのことはどうだ?」
「え?」
「怖いか?」
急な質問に、ディンセントは言葉が詰まる。
彼女が安全な人間か保証できるかと問われれば、首を捻るだろう。本人の意志によるものなのかどうかは分からないが、厄介で手に負えないような何かを持っているように思う。だが、暗黒のような、濁った澱みのような、思わず顔を背けたくなるような、そんな類いの怖さではないと思う。
何にせよ、未知数な部分が多過ぎる。
ああ、そうか。
まだ分かっていないだけなのだ。
「怖いというよりは……ただ、人よりちょっと手のかかる奴だと」
「そうか」
部屋から出ていったロカの幻影を追うように廊下を眺めるディンセントを見て、ソフィアンネは微かに眉を寄せて微笑む。
「……って、すみません! 団長の知人の方へ、手のかかるなんて」
「ふ、別に構わん。それが、お前の感覚なのだろう?」
「あのー!」
大声を上げながら廊下を駆け、部屋の中へと急カーブで滑り込んできたのはロカ。もれなく後ろにクゥムーもついてくる。
「ねぇ、ディンセント! 私っ、私の荷物はどうしちゃったかしら?」
「……。お前が荷物を放り出してクゥムーと庭で遊んでいたから、確か門兵が預かったはずだ」
「あっ、そうなのね、ありがとう! 取りにいくわっ」
「おい、こらっ、城の中でソラニルと走り回るんじゃねぇぞ!」
「はーいっ」
ロカはそう言い残すと軽やかにUターンし、裏門へかソラリコたちの所へか、バタバタと慌てて走り去っていった。あっという間に過ぎていった小さな嵐に音まで連れ去られたような部屋で、二人は呆然とする。
口火を切ったのはソフィアンネだった。
「くっ、ははっ。なるほど確かに、手のかかる奴だ」
「……俺、こんな調子で振り回されっぱなしなんですよ」
「いいじゃないか、飽きなくて」
ソフィアンネは、些か下がり気味のディンセントの肩を軽く叩いてやる。
「これも何かの縁だ。これからもロカのこと、少し気にかけてやってくれないか」
「え……あ……はぁ……」
「なかなかに嫌そうだな」
彼女の部下はげんなりした表情をしていたが、どこの者とも知れない少女の勝手で不思議な行動に警告と共に手を貸してやったことを考慮すると、彼は何だかんだ言いながらも面倒見のよい人間なのだろうという少しの期待を持つソフィアンネは、この空間にもう一つ、どこか楽しげな苦笑を追加した。
ディンセントは口は悪いですが、割と面倒見がいいタイプです。
巻き込まれ受難のニオイがしますね。




