黒い人と白い人
「早速、やってくれたな」
ロカとディンセントの目の前には、腕組みをして立つソフィアンネがいる。城の北東の詰所へ帰ってきた二人が、こうやって騎士団副団長に話を聞かれるのは当然のことだった。
「も、申し訳ありません!」
思わずディンセントは敬礼しながら謝罪する。途端に、ソフィアンネが軽く吹き出した。
「ふっ、謝ることなどない。お前たちが対処していなければ、どうなっていたか分からんからな」
彼女は長い黒髪を水平に払う。
「お前たちが止めた船は、世界で五本の指に入る大型旅客船だった。他国の重鎮クラスの者も乗船していたようでな、事故になることもなく済んで何よりだった」
「原因は?」
クゥムーを撫でながら、ロカが問いかける。
「ん? ああ、船については現在も検証中だが……、」
眉間に谷を刻んだソフィアンネはふいに言葉を区切ったので、ディンセントは表情を引き締める。
「……副団長、何か?」
「いやな。実に不可解なことだが……乗船者たちは全員眠りについていたようなのだ」
「え?」
全員が眠っていた?
乗客も、クルーも、船長も?
そのせいで、操舵ができなかったと。
夢物語じゃあるまいし、そんなことが実際にあるのだろうか。それに、全員が眠らされていたとすれば、事故ではなく……。
「お前が言いたいことは分かっている」
ソフィアンネは、丁寧に設えられている黒の軍服に皺を作りながら肩を竦めた。
「単なる事故では処理できない可能性が高い。ハイクラスの船にはそれなりのセキュリティがあるが、どうやってそれを掻い潜ったのか……もしくは内部からの線もある。乗客に国家レベルの人間がいたからな、政治的な関係も捨て切れん。もちろん、どこぞの某かの無作為の暴動の槍玉に上げられたのかもしれん。とにかく、目下調査中だ」
いきなりの物騒な話に、ディンセントは眉をしかめる。
暴動?
国家絡み?
まだ調査中だそうだが、面倒事を載せてやってきたのだけは確かだろう。
他国の事情のとばっちりを食うのは勘弁だと鼻息を漏らすディンセントの横で、ロカは黙っていた。
「ロカは、何か感じなかったか?」
ソフィアンネからの問いかけに唇を引き締めたロカは、クゥムーを撫でながらぽつりと話し始める。
「……多分、睡眠の原因はソラニルだわ」
「何?」
驚いたソフィアンネとディンセントは彼女を凝視する。
「匂い……あの甘い匂いは、多分、そう。でも、だからといって、すべてがソラニルのせいだとは思わないわ。だって、ソラニルは基本的に人に対して悪いことをしない子がほとんどだもの。だから、きっと何か理由があったのよ」
「分かった」
ソフィアンネは二つ返事で頷く。まるでロカは嘘を付かないというような信用の仕方だった。
「そこは考慮しよう。だから、あまりそのような顔をするな」
眉を寄せて寂しげなロカに、ソフィアンネは優しく微笑んだ。
ふいにソフィアンネは、ロカとディンセントの背後へと視線を移動させる。
「来たか」
彼女の声に誘われ、二人も後ろを振り返った。
詰所は騎士たちの出入りが激しいため、一応部屋ではあるがドアはなく、廊下の様子がすぐに窺える。その廊下に、ロカの知らない二人組が立っていた。
一人は白のワンピース型のセイラー服で、大きな襟の回りや袖口やスカートの裾に水色の線が入っている。もう一人も白のセイラー服だが、上下が分かれており、上は一人目と同じデザインだが、下は飾りのない白のパンツスタイルだった。両方とも、セイラー服の下にブラウスを着ていて、首元からは水色のリボンで結ばれた白いシャツの襟が見えている。
「こんにちは」
上品な声で挨拶をしたその人の淡いラベンダー色の髪は、柔らかく崩れながら後ろで丸くまとまり、吹き込む風で毛先が揺れている。微笑むその瞳は黄緑色に煌めく。もう一人は何も言わないが、濃紺の瞳にミルクティ色のショートの髪、そして、背が高くすらっと姿勢のよい立ち姿が印象的だ。
ロカは見とれ、一目でピンときた。
この人たちはソラリコだ。
セーラー服ではなくセイラー服です、ええ、特に深い意味はないのですが。
呼び方が何であろうとも要するに制服はいいよなって話はもうしましたっけ。
※ちょっと体調がよくなくて更新が遅くなってしまいましたm(_ _)m




