巨大な王
度胸試しのように、大きな客船とたった一台のハイエフが正面を切って突き進む。近付く船の体躯はみるみるうちに大きくなり、もう後数分で正面衝突するような位置まで来ていた。
この尋常じゃない状況に、今更ながらに冷静になったディンセントは口の端をひくつかせる。
そのとき、突然、大気の圧力がぐっと増した。急激に空気の密度が上がったような、頭上から形のない透明な手で押さえつけられているような感覚に襲われる。
「な、何だ!?」
「……ああ」
ロカが吐息を滲ませて呟く。
「来た」
ディンセントは身体中に悪寒が走る。
今まで感じたことのない緊急のアラートが、全身を駆け巡る。
耳が詰まる圧力と共に、ディンセントたちの頭上に巨大なソラニルが登場した。その体の下側から徐々に透明を解除して目の前に現れてくる姿は、まるで水底に潜行していくクジラのようだった。
声を失ったディンセントは、口を開けたまま天を見上げていた。客船などおもちゃのような、むしろ、コハントルタの島と同じくらい大きいのではないかと思うほどの巨躯が、威風堂々とこの空間に出現した。
固まったディンセントの背中へ、ロカの手が触れる。
「ヨロイクジラの王」
そう告げたソラリコの囁きを反芻しながら、ディンセントはただ口が渇くのを感じていた。
ヨロイクジラの王。
その名のとおり、クゥムーを巨大にし、且つ、途方もなく長い年月を経たような老練な姿だった。まれに遭遇するヨロイクジラにも、ここまで大きいものは見たことがなかった。
自失した彼を諭すようにロカの声が響く。
「あの方は世界中の島の守り神よ。島に重大な損傷をもたらす危機が訪れるとき、こうやって姿を現すの」
「ま、守り神……」
「ええ。でも、勘違いをしてはいけない。あの方が守るのは島であって、私たち人間でもソラニルでもない」
背中に添えられている彼女の指が、微かに引き攣る。
「客船にたくさんの人間やソラニルが乗っていようとも、島への衝突を避けるためなら、あの方は容赦なく船を叩き落とすわ」
ディンセントは思わず、傍に浮かぶクゥムーを見る。
クゥムーが気絶して倒れていたあのとき、ロカは何と言っていたか。
「島は、それだけ大切なものなの。例え、多くの命を犠牲にしても守るべきものなのよ、この空に浮かぶ島たちは」
温度の下がったロカの声に、ディンセントは息を噛み殺した。
ヨロイクジラの王のスケールは他のソラニルの群を抜きますぐんぐん。
/// お知らせ ///
作品の初期の頃は、文字数に配慮せず(読みやすい文字数などをまだ知らず)に書いていたので、話によっては極端に少ないことがあります。
日々勉強です。
ご了承のほど、よろしくお願いいたします。




