帰城
「はーい。じゃあ、そこに入ってね」
主は祭壇の魔法陣を指差した。それをよく見ると、解読不能な文字の羅列と共に獣の紋章が刻まれているようだった。
ロカは過去を振り返る。
「前にここに来たとき、クゥムーが教えてくれた帰り道にこれと同じ獣の紋章が刻まれていたわ」
「ああ、ここにはいくつか地点移動の魔法陣があるんだ。それだね。ちなみに、この紋章はオレなんだよー」
「あら、確かに、主さんの姿に見えるわ」
「ふふふん、でしょー」
ロカはさらに思い出して言葉を付け加えた。
「あと……ここからお城に帰ったときに、不思議な部屋に着いたわ。本がたくさんあって、床にはドラゴンの紋章が刻まれていたの」
「えっ?」
主は驚いて目を丸くする。
「ドラゴンだって?」
「ええ」
「へぇー、それは珍しいなぁ。そこはドラゴンが管轄する領域さ。ランダムに出現して、確実に行ける道はないとされているんだよー。それに、近頃は滅多にお目にかかれる所ではなくなったみたいでね。アンタが久方ぶりのカマラドだったからか、管理の者がたまたま興味本位で呼んだのか」
ディンセントはそう言えばと思い出す。夜の中庭でロカと出会ったときに、不思議な部屋のことについて話をした。その部屋のことだろう。
それよりも、ドラゴンという言葉に耳を引っ張られた。ソラニルの中にもトカゲなどの似た種はいるが、純粋なドラゴンというものはおとぎ話の中にしかいないというのが一般的な常識である。
ドラゴンが管轄する領域ということは、実際にドラゴンがいるということだろうか。それとも、何かの比喩なのか。
「ドラゴンなんているのか?」
率直なディンセントの質問に、主の口がにやりと笑う。
「さて、どうだろ?」
「何でドヤ顔なんだよ」
「ま、そのことは置いといてさ、早く魔法陣に入ってくれない? コハントルタ王と話をしなきゃ」
コハントルタ王を待たせるのはまずい。すぐにドラゴンのことなど頭からすっ飛ばしたディンセントは素早くハイエフを押して円陣の中に踏み込んだ。それにロカも続く。
主も魔法陣の中に進むとしゃがみ込み、拳に現した赤い石で魔法陣をノックする。途端に魔法陣が青く光り始めた。草木の世界が光でぼやけていく。
目の前が光だけになった瞬間、ロカたちは石壁に囲まれた部屋にいた。足元の魔法陣から発せられる光が消えていく。
「着いたよーって、あれ、こんな狭苦しい所だったっけ? 確か、昔は壁なんかない吹き抜けの場所だったような?」
主は石壁を見ながら呟く。そこは円形で石壁に扉だけが付いた、簡素な造りの部屋だった。魔法陣の刻まれた床の石と壁の石の材質や劣化具合が違うところから、石の壁は後から設置されたものと推測される。
「まぁ、いいや。じゃあ、行こっか」
主が魔法陣から出ようとしたとき、扉の向こうからいくつもの足音がやってきた。扉を開けたのは王族を護衛する騎士たちだった。主たちに気付いた彼らは、すぐさま礼を取る。
「主様とお見受けいたします。王の元へとご案内いたしますので……」
そこで、騎士たちは自分たちと同じ制服を身に着けてハイエフを支えるディンセントを目にして、ふいに言葉を止めた。
ディンセントは敬礼する。
「軽騎士隊のディンセントです。ノックス軽騎士隊長に取り次いでいただければ、自分の身分は証明できます」
そして、言葉を続けながらロカを見る。
「こちらはソラリコのロカです。ソラリコの管理長か……もしくはソフィアンネ様に聞いていただければ証明できると」
「ええ、王から主様以外に我が国の者が同行されると聞いていますが、こちらからもすぐに確認に向かいます」
その言葉と共に、騎士たちの中の二人が身を翻した。
「さ、こんなとこであまり時間もかけたくないし、コハントルタ王の所へ連れていってくれる?」
「承知いたしました、こちらへどうぞ。あと、ハイエフと武器は念のためにここに置いていってください」
ディンセントは頷くとハイエフを停め、剣や小銃を置く。そっと喉を鳴らした。表面上はどうということはないという表情を努めているものの、国王に謁見するのだ。緊張しないわけがない。
ちらりと、隣にいる普段通りのロカを見ては自身を叱咤するディンセントだった。
昔、魔法陣は城の吹き抜けの塔(屋根はある)にあり、転移移動が見えるようになっていましたが、ある王が、魔法陣はもう使わないし外部から見えなくした方がよい的なうにゃうにゃで石の壁に囲まれることになりました。




