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森村 沙織

わたくしの周りでは、幼い頃から不思議なことが起こっておりました。


 幼稚園に通っている時には・・・・・・、幼稚園と申しましても、わたくしの通っていた幼稚園は皆様方のような庶民の通う幼稚園ではなく、選ばれしものだけが入学を許される私立の系列大学の付属幼稚園でございました。


 その幼稚園では、わたくしに意地悪をした女の子がおりました。どうやら、わたくしとの身分の差をわかっておられなかったご様子。その後、その子が急にお引越しされるということがあったのです。それも一人や二人ではございません。


 わたくしが大好きで遊んでいた積み木のおもちゃが無くなって、わたくしが泣き止まなかったというようなことがあったようなのですが、その積み木を無くした子と担任だった幼稚園の先生も、いつの間にかいなくなっておりました。


 この頃からわたくしの身の回りの世話をするのは小野寺という使用人の男でした。この時、小野寺は二十四歳だったようです。五歳のわたくしの我儘を、嫌な顔一つせずに聞いておりました。小野寺のそういうところが、わたくしにクビにされずに済んだ要因なのでしょう。


 小学校も付属小学校でしたので、わたくしの周りで起こっている不思議な出来事は、同級生はもちろん、先生方も皆さんご存知でした。ですので、皆さんわたくしには腫物を触るような扱いでございました。


わたくしが授業を受けていて、


「お勉強を教えることが、苦手でいらして?」


と、わたくしに言われた教師は、赴任先が替えられてしまいました。

代わって新しく来た教師には、


「ちゃんとわたくしにお勉強を教えることが出来て?」


と聞くと、小動物のようにビクビクと震えながら教えてくださいました。教えることが出来た教師に対しては、


「完璧までにはまだまだですけれど、褒めて差し上げますわ」


と、言ってあげると瞳に涙を浮かべて喜んでおりました。




 中等部に進む頃には不思議なことが起こっている原因が分かってきたのです。


小野寺です。


わたくしが昔から、幼稚園や学校への送り迎えの時に、嬉しかったことや嫌だったことを、リムジンを運転する小野寺に話していたからのようです。


どうやら、小野寺が気を利かせて、わたくしの為にと思い、秘密裏に行動を起こしていたようなのです。




 高等部時代にも、小野寺には学園までリムジンで送り迎えをさせておりました。その通学路で寂れた商店街を迂回する場所がございまして、


「この回り道、無駄ね」


と、頬杖をつき窓の外を見ながら後部座席で、わたくしが呟いたのを、運転していた小野寺が聞き耳を立てていたようなのです。その数週間後には、そこにあった他人の洋服を洗濯するという小さな店が、裏に抜ける道路になり、回り道をする無駄な時間がなくなったのでございます。





 このアパートを見つけてきたのも小野寺です。

わたくしの高等部時代の同級生の寺崎里奈さんが、真下の部屋に住んでいるというのが理由だそうです。


寺崎さんは双子の姉妹で、どちらも美人で勉強も出来て、スポーツも万能。わたくしも勉強やスポーツは庶民の皆さんよりも優れておりましたが、わたくしの場合は、ここ一番という所で無理をしないものですから、そこの部分は寺崎姉妹に譲ってさしあげておりました。


 小野寺は二十四歳の時からわたくしの世話係を続けています。わたくしは五歳の頃から小野寺を見てきていますが、特定の女性とお付き合いをしているのを見たことがありません。


女性に興味がないのかしら。わたくしのような洗練された女性が身近にいると、庶民の女性には魅力を感じなくなってしまうのでしょうか。


 しかし最近、その小野寺と連絡が取れないのです。

今までわたくしに仕えてきた中で、こんなことは一度も無かったので、小用を言いつけたいときに不便でなりません。

 そのため、つい先日には生まれて初めて、コンビニという名の庶民の皆様の利用する商店に、足を踏み入れる事態に陥ってしまいました。


 何か考えがあってのことだとしても、次にわたくしの目の前に現れた時には厳しく叱責してあげなくてはいけませんね。


 あら、もうこんなお時間。

お紅茶でも淹れましょうね。


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